アイドルビジネス論2013・吉田豪×JJ小野 Vol.2 〜アイドルと音楽のシアワセな関係〜/アイドルを「守る」ということ


2013年4月11日に新宿LOFT行われたで行われた『アイドルビジネス論2013・吉田豪×JJ小野 Vol.2 〜アイドルと音楽のシアワセな関係〜』というトークイベントに行ってきた。
http://tackk.com/idolbiz2

自分がtwitterでぼんやりと観測した範囲では、どうやら「元」LinQプロデューサーJJ小野氏が前日にアイドル推し増しTV(http://blog.livedoor.jp/notftv/archives/26370184.html)に特別出演し、数々の楽屋裏話や他陣営のアイドル批判を行いいわゆる「炎上」が発生したらしく、今回のイベントにも注目が高まっていたようだ。自分はこの放送を見ていなかったので氏の発言の詳細や真意は分からないが、一昨日東京カルチャーカルチャーにて行われた『アイドルのいる暮らし』出版記念イベントにもJJ小野氏が出演しており、その場でもオフレコと称して楽屋裏話やアイドル業界の批判を行なっていたので、おそらく昨日も似たような発言があったのだろう。


一昨日、今日のイベントにおいて、JJ小野氏が主に批判していたのはAKB48タワーレコードであった。
AKBへの批判を要約すると、
1:AKBのビジネススキームが非常に優れていることを認めつつ、その利益が既得権益者にしか流れず、アイドル本人に還元されないこと2:(それだけ稼いでいながら、)アイドルに問題が起きたときに、「大人(秋元康)」がメンバーを守ろうとしないこと
という内容であり、タワーレコードへの主な批判は、
1:タワーレコードのビジネススキームが最悪である
2:自分はアイドル(LinQ)のためにこんなに頑張っているのに、タワレコはまったくアイドルを売る努力をしない
というものだった。

今回のトークテーマは「アイドルとビジネス」と題されていて、JJ小野氏もしばしば「金融の人間」としてビジネススキームの話に触れていたが、ビジネスという観点から結局のところ彼が重視しているのは、最終的にどうやって利益をアイドル本人たちに還元するかという点のようだ。また、彼はメンバーたちがアイドルとしての活動が終わったあとの長い人生についても非常に強く意識しており、アイドルをいち社会人として「教育」する重要性についても熱弁していた(他陣営の楽屋裏批判はこの強い意識が反転したものなのだろう)。
イベント終盤にはこれらの批判がヒートアップし、ついに氏が「爆弾」と称していたいわゆる「業界の闇」に切り込んだ際には、その不正を是正し、自らが手がけたアイドルたちが生きる世界を少しでも清くしたいと、非常に熱く、時に涙をこぼしながら自らの思いを語っていた。

JJ小野氏の主張は、ビジネススキームに関してはさておき*1、アイドルに関する理想という点では美しい正論のように聞こえる。だが、自分は一昨日と今日のイベントにおいて彼にまったく共感することが出来なかった。

たしかに、アイドルに対していち社会人としての教育を施すのは必要かもしれない。だが、アイドルファンとしての自分からすれば、アイドルが楽屋裏で業界人に対して挨拶ができようができまいが知ったことではないし、どちらかといえば挨拶が出来ないようなちょっとダメな子がかわいいと感じるかもしれない。もっといえば、社会人として生きていくには色々と問題があるかもしれないが、だからこそ反動としてアイドルとしての才能が輝く子というパターンを想像するとそれはもっと魅力的に映るように思える。このような見方の趣味が悪いのは理解しているが、そのような趣味の悪さをも引き受けるのがアイドルという存在の魅力の一つなのではないだろうか。

もちろん、これはファンからの視点であって、あくまでプロデューサーである氏の立場からは依然として全くの正論であるという反論もあるかもしれない。しかし、プロデューサーという立場だからこそ、より問題視されるべきである点を指摘したい。
それは、一見彼が何よりもアイドルのことを一番に考えているようでいて、しかしながら彼の主張はすべて「俺がアイドルに○○させてやりたい」「俺がアイドルに○○させてやる」という言い方に終始しているのだ。"俺が"アイドルを守ってやりたい、"俺が"アイドルに夢を見させてやりたい、"俺が"アイドルの活動が終えたあとを見据えて社会人としてのスキルを身につけさせたい・・・
彼が昨日の推し増しTVで「意図的に」炎上させてまで切り込みたかった業界の闇は、アイドルが依然として性的に抑圧されているという、意地悪に言えばずっと指摘されてきたものであった。だが、その構図を「俺が壊し」て、アイドルを「俺が守る」と純朴に言い切る彼のマッチョイズムでは、アイドルの性的抑圧を解放するどころか、別の回路でその抑圧を強化してしまうことにもなるのではないだろうか。彼が「プロデューサー」という権力者であればこの点にはより一層慎重になるべきである。しかし、彼はご存知のようにLinQの「元」プロデューサーである。「LinQに火の粉が降りかからないように自らが盾になる」と言いプロデューサー職を降り、昨日の推し増しTVでの発言に対しては

4月10日に行われましたUSTREAMの放送にて、弊社に所属しておりました小野純史氏の発言に関しまして、現在、多くのお客様、ご関係者様よりお問い合わせを頂いております。
これらの発言内容、意図につきましては、小野純史氏個人の見解であり、弊社ジョブ・ネットとは一切の関係の無いものでございます。
小野純史氏は2013年4月1日付けにて弊社を退社しており、現在弊社とは全く関係はございません。
弊社といたしましては前述の発言内容につきましては非常に遺憾であると共に、これらの内容にて多くの方々が不快に思われた部分につきましては、前所属会社として心より皆様にお詫び申し上げる次第でございます。
また、業界、関係者のみなさまには大変ご迷惑、ご心配をおかけいたしまして大変申し訳ございません。

http://ameblo.jp/loveinq/entry-11509602165.html

とまでLinQの現運営に言われている。
しかし、イベントでは依然としてLinQのメンバーを「うちの子たち」と呼び、彼女たちを徹底的に「守る」ことを約束するのであった。これではあまりに身勝手で、彼のエゴではないだろうか。


たしかに、昔から幾度と無く噂されてきたアイドル業界の問題は是正されるべきである。しかし、我々アイドルファンは、そのような問題が存在することを半ば認識しながらも、見て見ぬふりをしてきた。それは、そのような自分たちから見えないところにある不正からアイドルたちを守るどころか、自分たちがアイドルを愛するという行為が少しでも間違えたらアイドルを傷つけることに反転するという恐怖におびえ、時にその背徳感をも楽しんでいる自分自身に常に反省を差し込まずにはいられないからだ。
アイドルを守る、責任を取る。死んでもそんなことは心の底から言えない立場から、プロデューサーという立場にルサンチマンを抱いているだけなのかもしれない。だが、アイドルを守ることができるのは最終的にはやはりプロデューサーだ。心の底からアイドルを守ってほしいからこそ、安直にアイドルを守るだの業界を壊すだのといって単純に正面衝突して自爆という方法をとってほしくないのだ。

だが、今日のイベントではそんなJJ小野氏の信念を相対化するような、出演者のブッキングの妙をみることができた。例えばそれはJJ小野と同じステージ上に座っていた元メロン記念日大谷雅恵さんだ。大谷さんは、ハロープロジェクトという事務所に所属し、10年間というアイドルとして非常に長い年月をメロン記念日として活動した。その期間はJJ小野氏も本人も認めるほどに金銭的に安定した事務所から収入を得て、「麻薬が問題視された時期には警察を呼んで麻薬の講習を受けた」というような裏話が出るように、ある意味事務所に「守られて」いた。
大谷さんはメロン記念日が解散してから、一般人として生きていくのではなく、再びソロ歌手という道を選んだ。正直に言えば、その道は厳しく、決して「成功」しているとはいえない。もはや彼女はハロプロに「守られて」はいない。
だが、レコード会社の流通を「マージンとられるのが痛い」と正直に語りつつも、「ライブを見てくれて、その上で買ってくれるファンの顔が見れるのが良い」と語り、イベント終了後の物販でCD-Rを手売りしていた大谷さんの姿はとにかく力強かった。


また、別の出演者であったトラックメイカーのmichitomo氏が、自らを「クソDD」と呼び、笑いを誘いながら、アップアップガールズの曲作りを比較的自由に任されているのに対し、音楽屋として様々なクライアントの要望になるべく沿いながら曲を作るというプロとしてのあり方を語っていたが、もしかしたらここにも何かのヒントが隠されていたかもしれない。


アイドルをめぐる様々なプレイヤーがどのような意識で行動すればそれぞれ皆が幸せになるのだろうか。アイドルを「守る」とはいったいどういうことなのだろうか。依然としてその答えは出ない。


そのためにも、次回も、第三回目のイベントでその答えをファンを含めた様々な立場の人達が一緒に考えていきたい・・・とは正直思わない。はっきりってビジネスのことなどどうでもよいのだ。しかし、矛盾しているかもしれないが、自分がいちアイドルファンとして何もめんどくさいことを考えないで勝手に行動しているだけでアイドルに関わる皆が幸せになるような仕組みを考えることには興味がある。

それならそれで、ビジネスのことを考えるのが好きな人が勝手にそのような仕組みを考えてくれれば文句はないのだが、どうやらそれほど上手くは行かないようだ。


アイドルのいる暮らし

アイドルのいる暮らし

*1:さておいてみたものの、タワーレコードと組んだシングルリリース時に売上の大部分がイベントの「接触」で得た売上であり店舗売上が恐ろしく少数だったのでタワレコは無能である、タワレコなしでやれる、という話は、よくあるビジネススキームの変化に伴う中抜き論であり、宣伝能力やタワレコのブランド力そしてタワレコがもはやアイドルに関する「場」として非常に強い力を持っているという側面を無視した的外れな批判だと感じたが、私は彼が自称する「金融偏差値が高い」人間ではないのでひとまずはさておいてみた