RYUTist東京初ワンマンライブ/僕たちがRYUTistに見ているもの


アイドルを見始めるようになって5,6年ほどたった。更新頻度は低くなってしまったがこうやってアイドルのことばかり書いているブログも始めたし、アイドル領域というアイドル批評同人誌にも寄稿するようになったし、なによりネット生活の中心であるtwitterは自分のpostもTLの話題も大部分がアイドルのことばかりだ。
アニメやゲーム、声優、そしてアイドルと趣味が変遷してきたが、同じ趣味を持つ仲間と集まるようになったのは最近のことだ。アニメやゲームが好きだった中学生時代こそ同じような趣味を持つ友人は多かったためよくそれを話題にしていたが、高校で声優(田村ゆかり)にハマってからは一人でのめり込んでいったし、ライブにも常に一人で参加していた。2chのスレや統率のとれたライブ現場で匿名の「王国民」たちとゆるやかな連帯を感じることはあったが、今のようにライブ終わりにご飯を食べてその趣味について語り合う仲間は居なかった。

元々そういった慣れ合いはあまり好きではなかったけれど、twitterの登場により、いつのまにかアイドルファンの中でも一緒にご飯を食べるくらいに特に気が合う人が5,6人できていた。今日もRYUTistのライブのあとにその人達とご飯を食べていた。
特に気が合うといっても、好きなアイドル、出身地、年齢、聞いてきた音楽、そして何よりアイドルに対する考え方やスタンスは微妙に違っている。まるっきりバラバラというわけではないが、深く相手のことを知るようになるにつれて、それぞれの小さな差異に気づくようになる。
この仲間たちにかぎらず、twitterである程度の交流がある多くのアイドルファンの人達に関しても同じようなことは言える。アイドル好きという大きな(これはこれで狭い世界だが)共通点はあっても、フォローしている基準は「あまり不快ではない」というラインをクリアしていれば、見ているアイドルもスタンスもバラバラだ。異なる視点を持つ「他者」に出会うことができる、などと仰々しいことを言うつもりはないが、ある程度興味関心が絞られてくればくるほど、その狭い枠の中での小さな差異が大きく見えてくるものだ。


前置きが多少長くなってしまったが、今日はRYUTist初の東京ワンマンライブだった。前回RYUTistを見たのは、この一つ前のエントリにあるように11月に新潟古町でおこなわれたゆりり卒業LIVE。つまり今回が4人になったRYUTistを見るのが初めてだった。RYUTistのホームページのヘッダ画像が4人になってもあまり実感がなく、生で見るまでは4人の動画を見る気にもなれず、それでも新潟に行くタイミングを掴めず(2月に水戸で行われた新潟物産展のようなイベントにRYUTistが出演した時も少し努力すれば見に行ける環境にいたのだが、どうも気乗りしなかった)、あれよあれよという間に時がたち、3月になり東京でワンマンが開催されると知った。東京、ワンマン、その言葉がどれほどの意味を持つのか、意味がなくとも自分がどれほどのやっかいな意味を与えてしまうのかを多少危惧しながらも、発売日の開店10分後にタワーレコード渋谷店に赴き、60番代前半のチケットを手に入れた。


当日になり、整理券順に並ぼうとすると、知り合いが近い場所で待機していた。彼は「MIXが嫌い」と公言していることで有名で(?)、今日は座って静かに見ていたいなどというので、RYUTistはMIX入る曲も盛り上がる曲もありますよ、などと冗談めかして話していた。
MIXというのは散々その是非が論争の的になってきたし、一口にMIXが嫌いといっても様々な理由がある。自分も彼の気持ちが一部理解できるところもあるし、当然わからないところもある。個人的にもMIXは入れてもいい現場と入れてほしくない現場があり、また曲によってもその判断は異なるし、その理由ははっきり言って上手く説明できない。ただ、RYUtistに関しては自分は打たないけど周りが打つ分には気にならない。
また、彼とはRYUTistが東京でライブをする意味についても少し話した。RYUTistは新潟以外の場所でライブをすることは極めて少ない。それがどこまで戦略的なものなのかは分からないが、彼は「RYUTistは東京に安易に出てこないのが良い。地方アイドルはRYUTistを見習うべき」と話していた。それは半分は冗談だが、半分は本気なのだろう。これに関しても自分は全面的に同意することは出来ないが、そういう見方もひとつあることはあるだろう。
それよりも今回「HOME LIVE」と題して行うものを、東京でどうやって見せるのかという点には興味と若干の不安があった。もちろんこんなものは杞憂であって欲しい、そう願っていたが、RYUTistは期待を裏切らず、自分は見る前からなんて馬鹿馬鹿しいことを不安に思っていたんだろうと呆れるくらいにまさに「HOME LIVE」を見せてくれた。

「MIX」や「地方と東京」、そんなことはたからみれば些細な事だが、些細な事だからこそその分野に深く身を投じるものにとっては見過ごせない要素となる。どんなに目の前のアイドルのみを見ようとしても、その裏にあるコンテクストやステージではない「こちら側」の要素をアイドルから切り離せない、自分はそういった人種の中のひとりである。それらのアイドルを取り巻くさまざまなコンテクストが、自分がそのアイドルを「解釈」する上でプラスに働けばよいのだが、マイナスに働いてしまうことも少なくない。そんな自分に嫌気が差しながらも、そういう見方から逃れることが出来ないし、不意にそういったものを断ち切ってただただ目の前の情景に圧倒される奇蹟のような瞬間を待っているとも言える。

前回のエントリにも書いたように、自分にとってRYUTistは、そのようなさまざまなコンテクストにとりかこまれつつも、それをいともたやすく断ち切ってくれる稀有なアイドルだ。そしてRUTistは今回もそのような素晴らしいステージを披露してくれた。


コンテクストを断ち切る、というと語弊があるかも知れない。断ちきるのではなく、RYUTistは我々の我儘な視点をすべて包み込んでくれているように思える。自分にとっては実はRYUTistは新潟という土地とあまり強く結びついていない。前回古町で見たLIVEも、今回東京で行われた「HOME LIVE」も、土地とは切り離された、どこか観念的な「HOME」を感じさせてくれた。自分が新潟に行こうが、RYUTistが東京に来ようが、「<ここ>が約束の場所」なのだ。しかし、前述した友人は後に「新潟のHOME LIVEのパッケージをそのまま持ってきてくれてRYUTistさんありがとう」とtweetしていたし、新潟から遠征してきた新潟のファンはどこか「東京での初ワンマンを絶対に成功させよう」という気合にあふれていたように思える。そんな人それぞれの思いを、RYUTistはまとめて引き受けてくれたのではないだろうか*1

このような例は、楽曲に関しても見受けられる。RYUTistは今回13曲の楽曲を歌ってくれたが、盛り上がる曲、コミカルな曲、バラード、夏の曲、冬の曲と、実にバラエティ豊かなラインナップを揃えている。MIXの例にこだわって申し訳ないが、MIXを打って盛り上がることもできるし、バラードをゆっくり聞いて楽しむこともできる。これは別にRYUTistに限ったことではないが、それにしてもRYUTistの規模でカバー曲含め70曲ほどのレパートリー数を揃えているというのははっきり言って異常であり、各人が様々な角度からRYUTistを楽しめることができるようにという視点はかなり強く意識されているのだろう。それは古町で文字通り老若男女がめいめいのスタイルでLIVEを楽しんでいる姿を思い起こすことでも確認できる。

また、楽曲の中でもそのような特徴が強く出ているのはやはりカバー曲だろう。RYUTistはさまざまなジャンルのカバー曲のレパートリーを揃えていることが度々言及される。特に今回も歌ったRADWIMPSの『有心論』に関して、「アイドルがRADをカバーするとは!」という声を各所から聞いた。
しかし、自分がRYUTistのカバー曲の中でもっとも好きなのは、I'veの『Shooting Star』である。


最初に書いたように、自分はアイドルに興味を持つ以前の中高生時代はアニメやゲームといったジャンルが好きであり、特にI've soundに関してはそれ以外のジャンルを全く聴かなくなるほどに聴き込んでいた。ライブのあとにご飯を食べていても、アイドルファン仲間からはこのShooting Starが良かったという声はあまり聞かなかった。僕たちは通ってきた音楽のジャンルが違うだけで、目の前のアイドルの評価が変わってしまう。今日RYUTistを見た人たちの中でも、この曲に関する感想は異なるだろう。ただ自分にとってこの曲を聞くと、おねがい☆ティーチャーの世界観や、おねがい☆ティーチャーが大好きだった友人との青春の日々、このアニメの舞台となった長野県の木崎湖に数年前に旅行に出かけた思い出が次々と浮かび上がってくる。この曲の間奏でソロダンスを披露するわっかーはまるで木崎湖の白鳥のようだ。
わっかーは木崎湖の白鳥。この曲を歌うRYUTistを見てそんなことを思っている人が他にどれほどいるのかはしらない。ただ、自分がそうやって素晴らしいと感じたこと、そして同じ空間で同じRYUTistを見ている人が自分と全く違った思いをRYUTistを通じて抱いていること、そんな様々な思いがRYUTistという存在から生まれていることにとてつもない感動を覚えるのだ。


アンコール明けのリタルダンドは実は初めて聞いた曲だった。シンプルなピアノの三拍子のリズムの上に乗った歌詞は聞き取りやすく、それはどうやっても昨年に卒業したゆりりのことを思い起こさせるものだった。5曲目に披露したカラフル・ミルクで、ゆりりのカラーを紹介する部分の歌詞が違和感なく4人バージョンに変更されていたことを思い出す。そして最後に舞台下手に目線を送るRYUTistの4人。僕たちの目には、紛れもなくそこにはゆりりの姿が浮かんでいたことだろう。
「5人で東京での初ワンマンを迎えられてよかった。」リーダーののの子さんは、最後のMCで、いつものように穏やかにそう話した。必要以上に今はなき5人目を強調するのではなく、それが普通のことであるかのように。

RYUTistを通じて、僕たちはさまざまな思いを彼女たちに投影する。あるいはその裏にあるものを勝手に読み込んでいく。そんな欲望を彼女たちは受け入れてくれるし、それによって全体としてRYUTistの穏やかな「HOME」が形作られていく。

数ヶ月も間が開いても、見る場所が変わっても、メンバーが卒業してしまっても、そんな幸せな空間は変わらない。こんなRYUTistに自分はこれからも甘えてしまうだろう。

ようやく手に入れた『Beat Goes On!』。ジャケット映る5人、そして光の先に、RYUTistという約束の場所がいつでも僕たちを待っているのだ。

Beat Goes On! ~約束の場所~

Beat Goes On! ~約束の場所~

*1:「様々な人々の欲望を引き受けるアイドル」という構造に対して、特に自分が魅力を感じているということは自覚している。