アイドル現場と書いたものの、彼女は、正しくはシンガーソングライターだ。英語版の公式サイトにも、「MION is an award-winning Japanese singer-songwriter currently based in the UK on a Global Talent Visa. 」と書いてある。彼女のオリジナル曲も、別にアイドル風というわけではないし、おそらくシンガーソングライターと呼ぶのが一番正しいとは思う。でも、その可愛らしいルックスや甘い声、日本で活動してきた際の他のアイドルとのつながりやファン層などなどを考えると、自分の中では彼女のライブを見に行くときは、アイドルを見に行くという気持ちが正直ある。
そんな自分のフランス生活ももう残りわずか。最後に足を運んだのはバーミンガム郊外の公園で行われる「Festival of Leisure」。これはアニメフェスでも日本フェスでもない(一応日本ブース的なものはあるけれども、基本的にはただの地元のイベント)、ジェネラルな地元住民向けのイベントだ。正直パリから行くのは非常に大変で、ロンドン経由の電車ルートではなくバーミンガム空港からレンタカーという手段を思いつくまで行こうかどうかかなり悩んだが、地元向けイベントという真のアウェイ環境で彼女がどういうステージをするのか見届けたかったのと、これまで多かったやや味気ないカンファレンスセンターでの室内ステージではなく野外ステージというロケーションにとにかく惹かれたこと、そしてアクセスの悪さが最後に思い出になりそうだと逆に燃えてきた。
自分は固まって応援するファンたちから少し離れた位置に座っていると(それが斜構な自分の定位置でもある)、地元の年配のマダムに「Do you mind if I sit here?」と丁寧に尋ねられ、初歩的な間違いであるyesではなくしっかりnoといえた自分もまあちょっとは英語も慣れたかな・・・などと思いながら、見知らぬマダムと並んで2人がけの椅子でしみじみと彼女のステージをながめていた。マダムは身体を揺らしてたまに手拍子をしながら、彼女なりにMIONちゃんのステージを楽しんでいたようだった。そんな様子を横目で見ながら、ああ、本当にここに来てよかったなと思いつつ、とこれまでの3年間を思い返していた。
ガチ恋口上が叫ばれた曲は、Because you are you。学歴は一旦置いておこう、そのままの君でいい、好きよ because you are you。高学歴という属性を持つ者の悩み苦しみ生きづらさに対する自己肯定ソングである。歌詞をよく見てみると、ヲタクがどこまで考えているのかはわからないけれど、たしかにこれはガチ恋口上以外ない。ガチ恋口上はどうしようもなく凡庸だけれど、ヲタクなんてもちろんみな凡庸、高学歴アイドルもステージは凡庸だし中身も別にちょっと変わってるねと言われる程度のただの人間*2、自分は自分、そのすべてを受け入れて愛を叫ぶガチ恋口上がきっと正解なのだ。
長すぎる登場SE、しょうもないMCの小芝居のメンバーの掛け合い、何もかもが変わらず懐かしい、と思う一方で、主要メンバーが卒業して自分があまり現場に足を運ばなくなってしまった解散前ラスト1年間の空白期間を感じたり、あるいはnot for meだなと思うような寂しさが同時に襲いかかってくる25分間だった。
・・・・でも自分だけはその振る舞いはどうしてもnot for meで、スンっとこころが寒くなっていた。たぶん、この状況を笑えていないのは自分だけなんじゃないか、「異邦人」のスタンスを超えて、世界に一人で取り残された気分。明らかに自分の被害妄想だけれど、落ち込む心は止められない。
正直、自分はしもんchuのPにはかなり感謝している。しもんchuプロジェクトを立ち上げ続けてくれたこと、メンバーを気にかけメンバーから信頼されていること、イベントブッキングや地元での人脈、かなり真っ当なアイドルPだと思う。ただ、自分が運営と馴れ合うことが心の底から苦手で、アイドル運営がしゃしゃることが何より嫌いで、主役はいつだってアイドル本人でいてほしいということにこだわりすぎてしまう性格なのが悪いだけなのだ。そしてこのPへの感謝は、そういう自分の面倒臭さを彼はおそらくどこか感じ取っていてくれていて、ずっと一定の距離感を保っていてくれたことも含まれている。気さくな人柄で、ヲタクにも愛されていたPだったし、物販でもよくヲタクと話していたと思う。復活ライブでも物販に並んだ少なくないヲタクはP込みのチェキを撮っていた。そんな愛されキャラなのに、自分は当時東京から下妻まで毎月のように通ったにもかかわらずPに対して一切話しかけようとしないので、おそらく何かを察してか、向こうから話しかけられた記憶は殆どない。せっかくの復活ライブで、皆から愛されるPのはしゃぎっぷりに対してほぼ全員が笑っているのに、なぜ自分はその程度も許容して楽しむことができないのかできないのか、自分の強情さにほとほと呆れてしまった。コンセプトを過剰に読み込み勝手に期待し、そしてnot for meだと一人だけ勝手に落ち込むなんて、愚かすぎるのはわかっているのに。
このブログを書くときに、2015年に書いた自分のしもんchu解散エントリを読んだら、「恋さぬでヲタクとメンバーがぐるぐる回るのを少し離れたところから見ていて「ヲタクとの一体感」が生まれているのを見て複雑な気持ちになった」とほとんど今回と同じようなことが書いてあって、自分でも笑ってしまった。7年経っても、自分がブログで書いたことすら忘れていても、まだしもんchuが大好きで、勝手に作り上げた理想像をアイドルに押し付けた上でちょっとでもnot for meな部分があると勝手に落ち込むような面倒くささを未だに持ち合わせている自分に呆れ、でも自分はそういう人間だしほんとうにしょうがないなと納得してしまった。それがむず痒くて、でもアイドルを本当に好きになるというのはこういうことだったかもしれない、と思い出している。
学歴の暴力についてはガチ恋口上サイコーなどと無責任にいえてしまうけれど、完全に他人事の自分とは違って、学歴に過剰な思い入れがありなおかつ学歴の暴力を本気で好きな友人の話を聞いていると、彼にとってのnot for me (him)な部分との折り合いが大変そうだ。そんな彼の愚痴を他人事としてゲラゲラ笑いながら聞いてから数週間して、今度は自分が7年ぶりに復活したアイドルに再会して彼と同じような混乱に陥っていることに対して心底呆れて苦笑してしまったので、その情けなさをまた忘れてしまわないように、こうやって書き残している。ただ、自分が好きだったアイドルとは違って、まだそうやって心を乱されるほどに本気になれるアイドルが、まだ現役で活動している友人が少し羨ましい。
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あと少ししたらまたフランスに帰って、1年ほど過ごすことになる。2ヶ月弱でアイドルを楽しみまくった反動が怖い。フランスでは、アイドル現場で散々味わってきた「異邦人」を地で行く生活が待っている。神奈川生まれインターネット育ち、味気ない新興住宅街で生まれて東京の中高大学に通った学生時代、インターネット以外に居場所がないような、常にどこか他人事感とその寂しさを自ら引き受けていく矜持は自分の人生で一生ついて回る感覚だと思う。今回の一時帰国の振り返りは、また海外で過ごす残り1年やその先も続く人生に向けて、それはそれで、自分は自分でいいではないか(because you are you!)という自信につながるといいなと思う。
やはりもともとはハロプロが好きなメンバーがあつまっているのだろう、ハロプロ楽曲のカバーが一番多い。ハロプロを中心に、それ以外にもAKBやももクロといった有名アイドルの楽曲や、わーすた、イコラブ、Task have fun、フィロのス、ZOCといった日本のアイドルヲタクには馴染みのある多彩なアイドルから選曲されていて、バラエティに富んでいる。
アイドルを好きになったのは、嗣永桃子を好きになったからだ。昨日のラストライブで、梅雨真っ只中で雨予報だった6月最後の金曜日、ようやく太陽が沈みかけて雲が引いていく茜空がよく見えた午後7時頃。Buono!のソロ曲『I NEED YOU』の出だしの歌詞は、今日のためにあるとしか思えなかった。原曲は一転激しくなるサビも、今日のピアノ一本のアコースティックverではしっとりと身体中に響いてくる。「I NEED YOU 突然好きになった」という彼女の声に、自分が彼女を好きになった約10年前のことを思い出し、空を見上げた。