5/18 モーニング娘。コンサートツアー2012春 〜 ウルトラスマート 〜 新垣里沙・光井愛佳卒業スペシャル@武道館 /光井愛佳の魅力に気づかない鈍感な人

娘。コンに行くのは2010年12月のジュンリン亀井卒コン以来(http://d.hatena.ne.jp/nhokuto/20101215/1292436484)、間を空けてまたしても卒コンといいとこつまみ食いのなんちゃってハロヲタっぷりである。

しかしまぁ驚くほどに希望に満ちた、幸せな卒業コンサートだった。11期オーデの発表、9期10期による新時代の夜明けを偉大なるモーニング娘。の母ことガキさんが笑顔で見送る。ガキさんは常に笑顔で、生田会長を筆頭として母を慕って泣きじゃくる後輩たちの姿も、さらりと断絶や和解の経緯を話すほどに丸くなった田中れいなでさえも微笑ましい。セレモニー中に何度も観客は爆笑し、なごやかで、そしてなぜか自然と涙が溢れるような美しい空間だった。ガキさんの卒業記念ソングが松浦亜弥嬢のカバーと知って少しがっかりしたのはいつだったか、今となっては『笑顔に涙』というこれ以上ないタイトルが憎い。なにせ10年以上モーニング娘。に在籍し続けた新垣里沙だ。そんなレジェンドの卒業公演がすばらしくないわけがなかろう。これ以上は長きにわたってモーニング娘。新垣里沙を見守り続けてきたファンに存分に語ってもらうことにする。


そんな新垣里沙卒業コンサートに、20日前に急遽同時卒業が決まった光井愛佳。中盤で見せ場を作ってもらったとはいえ、偉大な先輩ガキさんの影で、最後まで主役になりきれなかった。未だに公式サイトのイベント名アナウンスは「モーニング娘。コンサートツアー2012春 〜 ウルトラスマート 〜 新垣里沙卒業スペシャル」である。
少しハロプロに詳しいファンであればご存知のように、光井愛佳は不遇なメンバーだった。不人気なメンバーというのはどうしても存在するものだが、彼女ほど「嫌われた」メンバーも例を見ないであろう。加入当初の新垣里沙は光井とは比較のしようがないほど批判や嫌悪を浴びていたと言われることもあるが、現在では誰もが認めるモーニング娘。の良心である。その二人が同時に卒業というのもまた皮肉である。もちろん光井愛佳のファンも数多く存在するが、それ以上に、ルックス・喋り声・態度・あるいはオーディション時の落選候補者(!!)などありとあらゆる要素をネット上で叩き尽くされてきた彼女。何を隠そう自分も彼女に対してそこまでいい印象を持っていなかった。
ネット等で誹謗中傷することの是非はともかく、好きなアイドルがいれば、嫌いなアイドルが居るのはある種当然のことであろう。我々が、特定のアイドルを好きな理由を究極的には説明できないのと同様に、嫌いなアイドルがなぜ嫌いなのかも上手く説明できない。好きと嫌いは紙一重とよく言われるように、無関心なアイドルは星の数ほどいても、嫌われるアイドルというのはまた特別な存在だ。AKB48前田敦子が象徴するように、人の注目を集める人間というのはそれだけ特に理由もなく嫌われやすいものである。

卒業セレモニーでも先輩メンバーからは「中間管理職として、嫌われ役を買って出てくれて助かった」と、後輩メンバーからは「最初は怖かったけど、叱ってくれて成長することができた」と感謝されていた光井。しかし、ファンにとっては、所謂「プラチナ期」のメンバーの中では(ジュンジュンリンリンを除けば)最も後輩でお荷物扱い、9期が入るまでは「停滞」の象徴とも受け取られ、9期10期が入ってからは可愛い後輩を虐めて調子に乗っている奴、と見られてしまう。アイドルファンというのはとにかくワガママな存在だ。しかし、そんなワガママや不合理さ、気持ち悪さを受け入れてくれるのがアイドルの最も良い所の一つであるように思える。そうであるならば、光井はある意味その不平や不満のはけ口としての役割を担ってくれていたのかもしれない。

さて、光井愛佳卒業コンサートとなれば、おそらく彼女が歌うであろう曲はひとつしかない。プラチナ9DISCに収録された「私の魅力に気づかない鈍感な人」である。恐ろしいタイトルである。歌詞はもっと恐ろしい。鈍感呼ばわりしている相手は一応彼氏らしいが、それこそ単に「あなたの後ろチョロチョロしてるだけ」の可能性もある。初詣デートをすればメイクが似合っていないと「化粧をおとされる」(!?)というもはやデートDVの域だ。そんな彼氏を鈍感呼ばわりしポジティブに「遠い未来に起こる全てを乗り越えながら歩き続けたい」と締める曲である。とにかく恐ろしい。そして果てしなくウザい。そのウザさが光井にぴったりである。
いくらネットで嫌われている(?)とはいえ、コンサート会場で、ましてや卒業セレモニーで罵声を浴びせるような愚かなファンは会場には居ない。先ほど述べたように、好きと嫌いは紙一重である。嫌いというよりも、ウザい、こう、何か心に引っかかる。彼女に対してそんな思いを持っているファンは自分を含めて多いのではないだろうか。卒業セレモニーは暖かくファンに迎えられ進行するが、残されたメンバーによる送辞に答えるたった一声の「はい!」「うん!」という声がまたウザい。あぁ最後まで光井はウザいのだなぁとなんだか笑えてくる。もはやこの「ウザさ」にマイナスの意味はほとんど持ち合わせてない。

そしていよいよソロ曲を披露する時が来た。流れてきたイントロはもちろん「鈍感」である。彼女のメンバーカラーである紫色のサイリュームが武道館という空間を覆い尽くし、揺れる。大きな歓声。「鈍感」は人気曲だ。甘ったるい歌い声につい顔がにやけながらケチャを送る。観客のボルテージの上昇を表すように、おぉォォォ!!という掛け声からウリャオイへつながる。Aメロは名前コール、BメロはPPPHに重ね名前コール、サビはクラップ&マワリ。極めてクラシックスタイルで定番のコールが入る楽曲作りが心地よい。
「私の魅力に気づかない鈍感な人」。ファンに向けて悪びれずに歌いかける光井愛佳。もとより愛佳の魅力に既に気づいていた人、そしてようやく気づいた人。もはやこの会場に愛佳の魅力に気づいていない人は居ない。愛佳は祝福され、もはや全てのファンに許されている。赦されている?いや逆だ、我々が愛佳に赦されていたのだ。一万の紫色のサイリュームの揺れは、まるで我々の魂のようだ。我々の魂は愛佳に祝福されている。一万の魂と視線を一身に受け、さらにはサテライト中継で各地の映画館にいる人々から祝福され、祝福し返している。本日2曲目に披露された「グルグルJUMP」のサビで両手をヒラヒラさせながらがに股で回って踊るときに、世界は祝福されたと毎回根拠無く思うのだが、「鈍感」で両手を手の上で叩きながらピョンピョンと猿のように飛び跳ねている時も、愛佳は武道館全体そしてサテライト中継で全世界を祝福しているのだなぁと感じた。



光井愛佳さん、卒業おめでとうございます。今まで「鈍感」でごめんなさい。そしてこんな鈍感な我々のわがままな思いを引き受けてくれていて、本当にありがとう。