AKBのたどり着いた場所/SKEのたどり着く場所



今週はSKE48のシングル、1!2!3!4!ヨロシク!が発売された。ついにモーニング娘。とAKB勢のシングルが同発となり、ついに世代交代が直接順位で示され少々話題(もちろんごく狭い範囲で)となったが、前作においても数値だけ比較すればそれは明らかであり、また今更いうまでもなくオリコンの売り上げ枚数がアイドルの評価の全てを決めるわけではない。モーニング娘。の新曲、女と男のララバイゲームも楽曲は素晴らしいと思うが、その話はまた別の機会に。AKB48がついにBeginnerでミリオンセラーを達成する中、妹分のSKE48はどこまで売り上げを伸ばすのか。

AKB48のミリオンセラーという結果は、もはやファンによる握手・イベント目当ての複数枚購入という現象「だけ」では到底説明もそれにたいする批判もできないことは明白である。社会現象を作り上げているのは間違いないし、自分の個人的な観察でも、現モーニング娘。のメンバーを誰一人知らないような大学生が男女問わずAKB48を話題にし、カラオケで歌い、そして(少なくない割合でネットでダウンロードして)iPodで楽曲を聴いている。これが圧倒的な現実である。

そのミリオンセラーを達成したAKBの楽曲は、ポニーテールとシュシュヘビーローテーションから趣向を変え、第二のRIVERとでもいうべきBeginner。PVには「告白」の中島哲也監督を起用し、その「告白」にも通ずる、「どこまでも表層的だが、その行きつく先に"リアル"はある」とでも言うべきテーマ性に満ち溢れたレベルの高い映像作品に仕上がっている。歌詞も「新しい道を探せ」「僕らは夢見てるか?未来を信じてるか?」「僕らは生きているか?明日も生きていたいか?」と非常にメッセージ性のこめられたものとなっている。もちろん結果論だが、初めてAKBがオリコン1位を獲得したRIVERと初めてミリオンセラーを達成したBeginnerと、ファンだけでなく(この2曲はファンにとってそこまで評価は高くないように思われる)社会に対するアンサーソングをこのような節目にしっかり持ってくる秋元康氏の嗅覚には感嘆せざるを得ない。


さて、話は変わって本題のSKEである。AKBに比べ、妹分のSKEはこれから成長するグループである。SKEがメジャーデビューを果たした直後は、SKEに対する期待は大きかった。巨大化し「会いに行けない」アイドルと化したAKBに見切りをつけてSKEに流れるファンも多かったし、ハロヲタ勢として外部から眺めている身からすると、当初SKEファンたちの間では「AKBは知名度はあるが、実力はさほどない。SKEは少数精鋭で、ダンススキルをはじめとした「実力」が圧倒的である」という言説がまかり通っていたように思われる。AKBに突如現れた異分子の松井珠理奈の華・アイドル性に惹かれ興味を持っていた自分としても、SKEのステージを見る機会がないまま彼女たちに漠然と期待を抱いていた。妹分とは名乗りつつも、AKBとは一味違う、未知数の名古屋のアイドル集団。デビュー曲の「強き者よ」はマジンガーZのタイアップに使用され毛並の違いを感じさせた。
しかしその後は青空片想いごめんね、SUMMERと、青春ど真ん中系の言ってみれば「AKBっぽい」曲をリリースし、独自路線を放棄したように感じられた。また、8月のアイドルユニットサマーフェスティバルでは、「実力のSKE」がいまいち感じられなかったことは先日のエントリでも述べた。参考:http://d.hatena.ne.jp/nhokuto/20100902/1283420750
そこで4作目の今回、どのような楽曲を持ってくるのか非常に気になっていた。そして発表されたが、モーニング娘。に直接引導を渡すことにもなった1!2!3!4!ヨロシク!である。10月の終わり頃に初めてPV映像を見たときは非常に興奮したのをよく覚えている。とにかく派手で、きらびやか、多幸感に満ちた映像。発売が待ち遠しかった。そして11月17日の発売日、音源とフルのPV映像を手に入れ、繰り返し見直して大満足し、絶賛のエントリを書こうと思っていた。どういう方針で書こうかしばし悩み、PVを見て直感的に「涙サプライズ!っぽいな」と感じたのを思い出して、涙サプライズ!との比較で書くことに決めた。そして涙サプライズ!のDVDを久しぶりに取り出して再生したところ・・・明らかに涙サプライズ!のPVの方がクオリティが高いことに気づいてしまい、途方に暮れてしまった。

SKE481!2!3!4!ヨロシク!AKB48涙サプライズ!、前者はざっくり言って「告白したい!イェイ!」という曲であり、後者は「誕生日おめでとおおおおお!」である。意味などない。多幸感、勢いと若さで勝負のまさに正統派(?)アイドルソングである。そこで重要になるのは歌唱力でもなく、ハッピーな編曲と、やはりPVの完成度だろう。
体育館で踊る、メンバーがカメラと一緒に前に歩く、といった点で両者にはいくつかの共通点があり、全体の印象としても似ているといえばきっと共感してくれる人は多いだろう。さて、その肝心のサビの部分で体育館で踊るシーンこそSKEの方がハッピー度は高いのだが、その理由はもちろんバックで踊る500人(!!)の女子高生エキストラである。というかこの1!2!3!4!ヨロシク!はこの女子高生エキストラ500人の存在が全てといっても過言ではない。今回は選抜メンバーが今までより多いのが特徴だが、はっきり言ってセリフ部分を担当する松井珠理奈松井玲奈矢神久美向田茉夏高柳明音以外のメンバーは完全に500人のエキストラに埋もれている。むしろ両翼の高い位置で踊っている2人×2のエキストラの方が目立っているのではないか?と思ってしまうくらいである。「ダンススキルの高い実力のSKE」がこれでは泣けてくる話ではないだろうか。
反面、涙サプライズ!を見直してみると、妙なドラマ仕立てで間延びしていた以前の楽曲に比べ、伊藤英明を起用した導入部は非常に魅力的な作りになっており(ちなみにSKEのPVは導入部なし)、その後も前田敦子を絶対的な中心に据えながら各メンバーが多彩なキャラクターを演じながら次々と画面に登場し、サビ直前の音楽の盛り上がりから幕が下ろされる瞬間のカタルシスをどうほめればよいのか分からないくらいに素晴らしい。「少数精鋭・実力のSKE」だったはずがメンバー外(バックで踊る無数の女子高生)に頼ることになり、「数で勝負」の筈だったAKBがメンバーのみで十分に魅力的な映像と物語を形成出来ていたというのは皮肉でしかない。


さて散々SKEをdisることになってしまったが、それは最初に書いたようにSKEに過剰な期待を抱きすぎているからなのかもしれない。もちろん1!2!3!4!ヨロシク!は多幸感大爆発の素晴らしいアイドルソングである。何がヨロシクなのかわからないがとにかく1234ご一緒に、じゃなかった1234ヨロシク5678愛して!ホント?ホント?イェーイェーイェーイェーである。最後は肩を組んでDJ OZMAのごとくナーナーナナナーで1234ノリノリ!!さぁみんな一緒に酒でも飲んで踊ろうじゃないか。AKBがいつ衰退するとかアイドル界の未来とかそういうことでうだうだ言わずにさぁみなさんご一緒に!!的な。


・・・さて、軽く思い出すだけでも沖縄のSPEEDや北海道のZONEなど過去にはローカルを売りにするアイドルはあまた存在していたけれど、「名古屋」はなんともイメージが悪い!中日ドラゴンズもあの人気のなさである。そんなハンデを乗り越え、いや、書き換えることができるのだろうか。ローカルから全国からへとステージを移すのか、はたまたうまく二重戦略を構築するのか、AKBとの差異を強調するのか否か、この先SKEがどのようなステージにたどり着くかはわからないけれど、SKEに幻滅するのはまだ早い。今後も関東からひっそりSKE48というアイドルを見守っていこうと思う、そんなアイドル戦国時代(まだ言うか!)初年度も終わりに近づいてきた11月19日です。では。