vineでアイドルを切り取る/閉じ込めるということ

最近vineにハマっている。かなりの今更である。vineというと、やはりvineで一躍有名になった例の女子高生のことが思い出される。いつだったか最初にvineというメディアを知ったのもその女子高生の動画だったと思う。
アイドルもvineを使っているのをしばしばtwitterから見かける。密度やクオリティの差こそあれ、かの女子高生のように、ネタを6秒の中に詰め込んだパターンが多いように思われる。自分を表現する方法として、スマホひとつで、手軽に、ある程度自在に編集した動画を生み出すことができる。若いアイドルにとっては使わない手はないだろう。
vineをインストールして使ってみると、なるほどと思うことは多い。タップしている間だけ録画が進むので、編集ポイントを簡単に作ることができる。あらかじめ撮影しておいた動画をあとから6秒間切り出すこともできる。

だが、最近ハマっている自分のvineの使い方は、今挙げたようなものではない。これがどこまで一般的な、あるいは一般的ではない使い方なのかは観測範囲が狭いのでよくわからないが、自分の狭い観測範囲の中では割と多い使われ方であるように思う。
それは、「アイドルの既存の動画をvineで切り出す」という方法だ。
テレビ番組から、あるいはYouTubeの動画から、好きなアイドルの好きなシーンを6秒以内に切り取ってくるのだ。
思うに、アイドルヲタクというのは、自分が好きなアイドルの「ちょっとしたしぐさ」を見逃さずに捉え、必要以上にその点を好きになるのが得意だ。あるいはそれまでとくに好きでもなかったアイドルの「ちょっとしたしぐさ」を必要以上に自分の中で増幅してしまい、そのアイドル自体を好きになってしまう。同じセットリスト、あるいは同じ持ち曲のライブに何度も通い、形式的な反復から漏れだす「ちょっとしたしぐさ」を見に大金を落とす。2時間超のドームコンサートで双眼鏡から目を離さずに2時間のうちに数回しかない数秒のポイントを逃さず、とらえた!と思ったらライブ終了後にすかさずtwitterに連投。なんども入ったコンサートのDVDを買って、好きなシーンを何度もリピート。想像も交えて適当に書いてみたが、おそらくあたっているであろう。
そういう性質のアイドルヲタクにとって、vineで既存の動画を切り出す作業は非常に楽しい。楽しすぎる。一般的に能動的に1〜2ネタ仕込む使い方とは全然別なのに、6秒間という時間がまたこれはこれで絶妙で、アイドルを見ていて「ここ!ここがいいの!!!」となるポイントは大体6秒以下だ。その6秒の切り取り方はあたかも「自分だけが発見した」ように感じられるし、切り出した6秒間のアイドルは(もともと既存の動画であるにもかかわらず)圧倒的に自分だけのもので、そしてなにより素晴らしいことに、切り出した6秒間の「ここしかない」というポイントがエンドレスでリピートされる、それがvineなのだ。もういちいち巻き戻しボタンを押すこともシークバーを動かすこともいらない。自分が切り取った一瞬は永遠になり、画面の前で呆けているだけで時間だけが過ぎていくのだ。
vineを作っていると、なんともいえない懐かしさを感じる。それは今挙げたようにDVDの好きなポイントを繰り返し見ていたあの頃の自分であり、もっと遡れば、ごりっごりのガラケー時代、メール送受信画面としてgif画像を作成するために元画像を用意してからgifに変換していたあの頃の記憶かもしれない。gifと違ってvineは音が出る。素晴らしい時代だ。

vine動画を作ることと、カメラを撮ること、あるいは映像を撮ることはどう違うのだろうか。カメラとは「見る/見られる」という関係性を作り出し、「視線」という力を借りた暴力装置であるとか、あるいはカメラは被写体から発せられる光を固着させているに過ぎず、ただただ光を原始的に受け取るしかない受動的な装置なのだといったような議論や、カメラと比べて映画は「その一瞬を切り取ること」を放棄した怠惰な行為であるといった議論を読んだ記憶がある。いままでのカメラ論・映像論の中でそれらの議論がどういう隆盛を経てどう評価されているのか不勉強ながら知らず、vineにどう接続されるかも分からないが、アイドルヲタクの使うvineというのもなかなか特殊な暴力装置であるように思える。生身の人間たるアイドルを固着させたDVDから、さらに6秒というわずかな時間にアイドルを閉じ込める。アイドルはその6秒を延々とループし、愛でられながら生き続ける。ループする世界が題材のどんな美少女ゲームであっても6秒では短すぎる。6秒では主人公あるいはヒロインたちはとうていその世界からは脱出できないだろう。

さらにいうならば、自分が今最も好きなvineの使い方は、そもそも固着されること=録画されることが想定されていないであろう、ネット上のストリーミング放送、正確に言えばSHOWROOMという生映像配信プラットフォームの放送をPC上でキャプチャ録画したうえで、本来であれば一回性の瞬間をvineという6秒間のループ空間に押し込んでしまうというものである。自分で言うのもアレだが、かなりエグい*1

話がそれたのでまた少し昔の思い出に浸って終わることにする。
自分が声優ヲタクを卒業し、アイドルヲタクに不時着陸したのは2007年頃。はじめて好きになったアイドルはBerryz工房嗣永桃子だった。アイドルヲタクになりたての頃、当時親しくしてくれた大学の友人の家にBerryz工房のライブDVDを持ち込んで転がり込んでは、その友人は大して興味が無いのに、どこの動きが可愛いだのどこの動きが面白いだのを勝手に解説してリピートして呆れさせていたのをよく覚えている。

いま思い返しても強烈にvineに切り取りたいと思うのは、2010年夏のハロコンで道重・梨沙子・ジュンジュンの続・美勇伝が愛すクリ〜ムとMyプリンを歌った時にサビでひな壇の桃子が立ち上がって横にいた須藤にふりふりヒップアタックをかましている姿(とそれを見て爆笑している岡井ちゃん)をカメラが完全に抜いた瞬間と、いつだったか完全に忘れてしまったけれどもスッペの「♪よそ見なんて許さないわよ」のところで桃子と熊井ちゃんが上に掲げた手を合わせるところで身長差約30cmでまるで届かない熊井ちゃんの手まで桃子の手がするするっと斜めに登っていくのをカメラがアップで追いかけていく瞬間だ。


明日、いや、日付を超えたので今日は2015年3月3日。Berryz工房の無期限活動停止武道館ライブの日だ。
ヲタクがいくらvineでアイドルを切り取って6秒の永遠の時間に閉じ込めたとしても、現実の時は過ぎていく。ただ、どっちが真実かなんてことはどうでもいいのだ。6秒間の永遠も、思い出も、そして実際にこの先も生きていく生身の彼女たちも、僕たちにとってはどれも本物に違いない。

*1:特に、対象となるアイドルがテレビやDVDといったメディアに登場することが殆ど無く、現場以外だとSHOWROOMやニコ生のような敷居の低いプラットフォームでしか見れない場合。。