2014/5/17 ご当地アイドルお取り寄せ図鑑 7☆マーメイド vs Mibuki with tutu&Beat's / アイドルを「見つける」ということ

お取り寄せ図鑑

ご当地アイドルお取り寄せ図鑑を見るのは第1章と合わせて今日で3回目。会場は新大久保・TOKYO STYLE→青山・Future SEVEN→秋葉原AKIBAカルチャーズ劇場と順調?にステップアップしている。
神奈川県平塚市の7☆マーメイドと長野県上田市のMibuki with tutu&Beat'sの対決であり、自分のお目当ては後者。
http://map.pigoo.jp/events/view/1043

「ご当地アイドルお取り寄せ図鑑」というのはなかなか刺激的なイベント名だ。各都道府県から「ご当地アイドル」を選抜し、トーナメント方式で競わせて勝負するというBS番組の公開収録だが、アイドルにまつわるトピックに少し(むしろ過剰に?)敏感な人であれば、「ご当地アイドル」「お取り寄せ」「勝負」というワードにひっかかりを覚えるかもしれない。ここ数年のアイドルブームの熱狂の中で、必ずしも良い影響ばかりが語られているわけではない。そのブームの影響により、東京(地理としての東京、巨大資本の集結地としての東京)だけではなく、各地方においても多くの「ご当地アイドル」が生まれ、そして消えていく。それを東京が「お取り寄せ=消費」するのか。その上、アイドルはなぜ戦わなければいけないのか。様々な観点から反発を呼びそうなタイトル・コンセプトである。


アイドルはしばしば「見つかる」という言い方をされることがある。一般的には有名ではないが、一部のファンからはその実力を認められ、あるいは愛されていたアイドルが、何かをきっかけにして一気に多くの人々の目に触れることを指すと思われる。最近ではRev. from DVLの「橋本環奈」の名前を出せばわかりやすいだろうか。もちろん、一般的には良い意味では使用されない。
前述の「一部のファン」がいわゆる古参ファンであれば、彼らはこう嘆くだろう。○○は「見つかって」しまった。これまで自分たちで心地よく楽しんでてきたのに、新参に一気に食い荒らされた。現場の雰囲気は変わり、物販のルールも変わり、かつての心地よさはきえてしまった。会う機会も少なくなってしまった、と。
この「一部のファン」がいわゆる地方アイドル/ご当地アイドルにおける「地元ファン」であれば、もっと複雑な思いが追加されるかもしれない。これまで地元のファンが支え、心地良く楽しんできたのに、一気に東京に食い荒らされた。アイドルは東京遠征ばかりして、地元でのライブの件数が極端に減った、と。地方と都心という大きな構造的な問題やそれに基づく心情的な問題から、何度も同じような話が繰り返されてきたのを横目で見てきた。


そこで、「ご当地アイドルお取り寄せ図鑑」である。
結論から言うと、イベント名が生みかねない違和感はあまり感じず、自分はこのイベントが気に入っている。おそらくそれは、このイベントにおいてアイドルを「見つける」ことの楽しみのバランスが個人的にとても合っていたからだと思う。それはどういうことだったのか、少し書いてみたい。

まず、この番組のレベル感について。たしかにご当地アイドルを東京に「お取り寄せ」してテレビ番組を収録しているのだが、この番組には「資本」の香りがまるでしない。テレビ番組と言っても地上波ではなくBS番組だし、優勝賞品は都道府県にちなんだ47万円(少ない!)と、副賞のアイドルのメンバーが考えたオリジナル衣装作成権。正直なところ、第一期で優勝した宮城県みちのく仙台ORI☆姫隊にしても、結果として今「見つかって」いるかというと、おそらく「見つかって」いないだろう。せいぜいこの公開収録を見に来る程度、あるいはBS放送にわざわざ月額料金を払って見る程度の、少しアンテナの感度が高いアイドルファンが楽しむだけで終わりである。かといって「地方」や「ご当地アイドル」を「搾取」しているというイメージでもない。この搾取感のなさをあまり上手く説明できないが、先ほど挙げたような典型的なアイドルが「見つかる」ことをめぐるいやらしさから少し外れた場所にある現場だ。

ただし、腐ってもテレビ収録である。複数のカメラがセットされ、ステージ下からはカンペが出て、なによりMCに野呂佳代がいる。
野呂佳代をたまに地上波で見るだけだとあまり気が付かないのだが、こういう場で彼女を見ると、やはり彼女は「テレビの人」なのだなぁと思う。決してMCが上手いとも思えないのだが、初めての収録で緊張しきっているアイドルには場の雰囲気をほぐしそのアイドルの良さを引き出そうとし、徐々に慣れてきたアイドルや、むしろ最初からこういう場でのアピールに慣れているアイドルには、彼女が普段テレビで見せるような態度で毒を吐きイジることで、違ったアプローチでアイドルの良さを引き出そうとする。こうやって言葉にすると大体アイドル現場のMC(主に芸人)のスタンダードなやり方なのだが、自身が通ってきた様々な経験からくるものなのか、野呂がどんな態度を取ろうとも、そこには彼女なりの「優しさ」が寄り添っているようにみえる。
この番組においては、地上波でいうところの「DT浜田さんに叩いてほしい」が「野呂さんにイジってほしい」になるバランスがなんともいえない味わい深さを出していると思う。お取り寄せ図鑑に出演するご当地アイドルが野呂をDT浜田のような目線で見ていても、逆に彼女を全く知らなくてもそれはそれでどちらも面白いのだ。


そして、野呂はMCとしてアイドルの良さを引き出す、つまり「見つけ」ようとする。最近のアイドルはみな自己プロデュース力が高く、「弄られポイント」もあらかじめ置いておくようなうまいやり方で持ってくるパターンが多いが、今回の7☆とMibuki〜は共にそのようなタイプでなく、なおかつ、その辺りの性格がまるで逆なところがとても面白かった。
7☆は出だしから緊張している様子が手に取るようにわかり、「純粋!かわいい!」と諸手を上げて叫んでしまいそうなある意味珍しいアイドルだというのが第一感で、野呂も赤子に接するように探りを入れていた。しかし、コーナーが進むにつれ、台本を常に読んでいるような「やらされてる感」が次第に彼女たち独特の演劇的な世界観に広がっていく面白さにMCの2人も我々も飲まれていくのが楽しく、最後の歌コーナーでも、その流れの集大成のような、カツラを被って小芝居を織り込んでくる曲を披露して、我々は彼女たちを「発見」するというより、気づいたら彼女たちのテリトリーの中にいたのだった。

一方、Mibuki〜も出だしから明らかに緊張しており、それを勢いでごまかそうとするのが個人的には愛おしかったが、野呂としても叩いてイジるべきか優しくもっていくべきか明らかに困惑していたようだった。次から次へと繰り出される突っ込みづらい小ネタにも野呂が全て「コメントすることがない」という言葉ひとつで返すことで笑いを誘うという流れになり、トークコーナーでMibuki〜の魅力は残念ながらあまり「発見」されなかっただろう。しかし、それがすべて前フリだったかのように、最後の歌コーナーでMibuki〜は別人のように引き締まった顔で登場し、しなやかに激しく踊り、歌い上げて、彼女たちの見せたい魅力がどこにあるのかを完全に我々に植え付けて去っていった。
セットリストを見ても、定番の『Precious White』や『セピア色のRecollection』をあえて外し、『Moonlight Temptation』『Daring days』『Rising sun』という曲調の異なる3曲を、おそらく初の試みとなるショートバージョンを取り入れることで持ち時間内に並べ、「魅せること」をとにかく意識していたことが伺えた。




アイドルを楽しむことが究極的には人間同士のコミュケーションあるいは情報を摂取する行為に還元されるとしても、そのコミュニケーションや情報伝達の在り方は、地理的・資金的・メディア環境的・社会構造な条件や、イベント主催者・アイドル運営、そしてアイドル本人のポテンシャルといった様々な要素の影響を受け、そして巡りあいがある。巡りあいとは、多かれ少なかれ何かを「発見すること・見つけること」にほかならない。特にアイドルについては、個人的には出会いのきっかけつまり「見つけ方」に、そのアイドルに対する評価が大きく違ってくると感じている。人間の良さを「発見」するという行為への恐れ多さと、それでもより深く相手のことを知りたい、それを超えて勝手に解釈したいという欲望のせめぎあいがアイドルの楽しみ方にはついてまわる。
今回の2組は、彼女たちが自分のことを知ってほしいと思うことと、我々が彼女たちのことを知りたいと思う気持ちが、お互いとてもぎこちないながらも最後には大事なものが伝わった、どこか中学生の恋愛のような、ぐっとくる良さがあった。ファンがアイドルを値踏みし解釈する一方、アイドルはその視線を理解し周到に自己を演出するという闘争が当たり前の世界から少し離れた、心地よい現場であったと感じた。

Mibuki with tutu&Beat's

ここで終わればなんとなく何かを言ったようで「ほっこり楽しかった」以外に大して何も主張していないエントリとしてまとまっていなくもないのですが、それでは言い足りないので言いたいをことを書くことにします。Mibuki with tutu&Beat'sです。

Mibuki〜を一番最初に知ったのは、昨年末〜今年のはじめに『Precios White』という曲の動画を見たのがきっかけでした。妙なクオリティの高さに一発で興味を持ち、2013-2014冬シーズンは「雪の降る野外イベントでアイドルを見る」というよくわからない目標を立てていたこともあり、長野まで見に行く機会を淡々と狙っていました。2月に狙っていた長野市でのイベントは大雪のためになんと長野新幹線が止まるという事態で願いはかなわず、ようやく生で見ることができたのが、3月に急遽決定した名古屋(!)でのワンマンライブ。当時未音源化の数々のオリジナル曲に加え、東京女子流Dream5Folder5といったavexサウンドのカバーを畳み掛け、合計5時間を超えるボリュームの前にただただ圧倒されて一気に虜になったのをよく覚えています。それから何度か長野にも足を運び、東京初遠征ライブにも参加し、今回のお取り寄せ図鑑がMibuki〜にとっても2回目の東京遠征でした。

Mibuki〜の良さは上にも書いたようにまずはそのステージ力や楽曲の良さにあり、「東京女子流トリビュートとして〜」という枕詞とともに最近言及されはじめているので、自分に音楽的な素養があまりないこともあり「凄い」「良い」以外にあまり語彙がないので、その点については他所に譲ることにします。自分がなにより今回のお取り寄せ図鑑で感じたのは、Mibuki〜の面白さに関する魅力です。

まず、Mibuki〜がお取り寄せ図鑑に呼ばれた時点で面白かったです。というのも、これまでMibuki〜は上田市にある菅平高原の奥ダボススノーパークというスキー場のPRソングを歌ってはいたものの、とあるイベントで長野県のアイドルが集合したことを振り返ってメンバーのMibukiが「私達別に「ご当地アイドル」じゃなくて「上田出身」ってだけだしね笑」と妙な自意識を披露してみたり、お取り寄せ図鑑以外のとあるバトル系イベントについても「別に勝ち負けとかじゃなくて、私達の良さを知ってもらいたいよねー笑」と口では言うものの明らかに勝負を意識しており、お取り寄せ図鑑前日でもブログで不安を吐露したり、サイゼリヤでカツを食べたりしていてとても可愛いです*1

そもそもMibuki〜は野呂も「安室奈美恵 with SUPER MONKEY'S」に言及しいてたように、リーダーのMibukiがかなり前面に押し出される形でMiyu・Nanami・Wakanaの3人とともにユニットを結成しています。年齢もMibukiだけ高1で他の3人が中学2年生ということもあり、Mibukiが3人を従えているようで、実は3人の方がある意味大人で、実力面でも申し分なく、3人がMibukiを支えているような構図がとても気に入っています。
お取り寄せ図鑑では年齢を言わなかったためこの構図があまり意識されなかったので、野呂もMibuki〜について突っ込みどころを探すのが難しかったと思いますが、終盤のコーナーでMibukiが発表している内容に楯突く発言をしたWakanaをMibukiが睨みつけているのを野呂が気付き、「Mibuki」と「with(3人)」の不仲を煽るような方向に持っていったのはさすがだなと思いました。
しかし、他にも野呂が気が付かなかったMibuki〜の面白さの魅力は収録中にもたくさんあって、それを「見つける」のは、野呂が気づいていない事も含めて、正直とても楽しかったです。
リーダーのMibukiはとても野心的で、様々なことに意識が高く、事あるごとに年下メンバーを気にかけ指示を出しています。それがいやらしくならないのは、彼女持ち前の愛おしさと、指示を受ける年下メンバーの寛容かつ従順という態度(あるいはWakanaの自由な態度)と、その野心や意識の高さが結果的にステージ上のパフォーマンスに結びついている点にあると思います。特に最後の点が大事で、アイドルにはなかなか珍しいことです。
収録中にもリーダーのMibukiは7☆マーメイドがコーナーでポイントを稼ぐたびに少し笑っては悔しそうな顔を隠そうとしなかったし、MCの南波氏に「マイクを口元においておくとすぐに反応できるよ」という真面目なアドバイスに対してすぐ実践し年下メンバーにもそれを徹底するようカメラに拾われないように囁き、7☆のコーナー中なので椅子に座っているだけで発言する機会がないはずの場面で常に口元にマイクを置いていてとてもかわいらしかったです。そして途中であきらめて膝においてました(Wakanaは最初から従わず膝においてました)。
そう考えると、アイドルの自己紹介フレーズによる「キャラ付け」というのはほとんど形骸化してそれほんとに意味があるのだろうかと疑問で聞き流してばかりですが、リーダーのMibukiの「歌もダンスも全力少女 リーダーなのに一番甘えん坊なクイーン」というのはなかなか良く説明できているなぁといまさら頷いています。

7☆マーメイドについては、彼女たちの良さがすっと入ってきてとても楽しかったけれども、Mibuki〜に関しては、本人があえて出そうとしていないところをある意味目ざとく「発見」した気になって喜ぶ意地の悪い楽しみ方や、前半部で溜まっていたはずのフラストレーションが最後のステージパフォーマンスで反転して全部いいものに繋げられてよかったなとMibukiの気持ちを勝手に想像する楽しみ方ができてよかったです。先ほど書いた中学生の恋愛のようなコミュニケーションと性格の悪い値踏みの間で揺れ動く、あるいは両立できてしまうのもアイドルの楽しさの一つということでしょうか。


アイドルを「見つける」様々な楽しみについて、未だに自分の中でよく整理できていませんが、時には後ろめたさを抱きながらも、まだまだやめられそうにありません。結局のところ、自分が見つけているようで相手に引き込まれている。その勝手な綱引きの波に身を漂わせるしかないのでしょう。


おまけ 元ネタを「見つける」ことについて

自分は音楽的な素養があまりないので、アイドルの曲を聞いても、ジャンルや、これは○○の系譜だとか、××のオマージュだとかいうことはほとんどわからないのですが、そのような流れ自体には興味はあります。
Mibuki〜は衣装やコンセプトなど全体のイメージから東京女子流の系譜だと言われることがあり、その理解はおそらく間違ってはいないのでしょうが、曲に関しては松井寛率いる女子流サウンドやその裏にあるディスコ・ファンクの系譜に直結しているわけではなさそうです。

たとえばMubuki〜の代表曲である『セピア色のRecollection』や、ボカロ音楽が原曲です。


自分はボカロ音楽を普段殆ど聞かないのでボカロとアイドルの接点についてもあまり詳しくないのですが(他にもボカロ曲を歌うアイドルがいるのを知っている程度です)、Mubuki〜のオリジナルとして編曲し直して生まれ変わったこの曲は、特にサビの部分で二人ずつパートを入れ替えながら歌いお互いがお互いを上へと引っ張っていくかのように曲の終盤に突入していくイメージがMibuki〜のイメージにぴったりで大好きです。原曲のきらめく雪模様を感じさせるイメージを残しながら、しっかりMibuki〜のオリジナルとして成立しています。

また、お取り寄せ図鑑の一曲でも、観客を引き込むための勝負として歌われた『Moonlight Temptation』ですが、こちらもボカロの原曲があります。


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原曲では中盤にサックスなど各楽器のソロパートがあり、その点が高い評価を得ているようですが、この部分はボカロの声は乗っていません。しかし、Mibuki〜用に編曲されたバージョンでは、同じメロディをメンバーが歌ってからサックス、というパートになっています。WakanaとMibukiはもともとボカロでさえ歌われていなかったサックスのソロ部分を歌うわけで、音の動き方や高低といった点で人間には元々少々無理があるのではないかと思ってしまうようなパートですが、今回のお取り寄せ図鑑では以前より格段にこのパートが上手くなっていて、とても感動しました。


自分のような素人でも少し検索すればボカロの原曲が出てきて、違いを聞き比べられるという楽しみ方は今までにあまりない経験で、こういう「見つけ方」もあるのだなと不思議な気分になっています。
MibukiそしてMibuki with tutu&Beat'sの見てていて気持ちのよい上昇志向と、そこから生まれる面白さや可愛らしさそしてかっこよさにすっかり夢中です。