1/28 9nine ワンマン9nine〜略して"ワンナイ"スペシャル!!〜 @品川ステラボール

前回のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/nhokuto/20120126/1327591343)に続いてまたまた9nineの話。今度はワンマンライブの感想。

最初に自分がどの程度の9nineファンかというと、最初はやっぱりウミカチャン(川島海荷)が好きで*1、新生9nineの再始動後からチェックするようになり、特番や『GO!GO!9nine』を楽しみにしていて、現在放送中の『こんなのアイドルじゃナイン!?』がとても好きで、今回のワンマンがライブを見るのが初めてというライト層である。
1stワンマンに行く機会を逃してしまい、池袋や川崎・横浜でシングル発売ごとに今までに行なってきたリリースイベントも気になっていたけれど、パブリックスペースでの無料ライブでの9nine初体験は「もったいない」気がしていたので、我慢して単独ライブまで待つことにしていた。前回のエントリにも書いたように、9nineはテレビメディアで見ていたいという気持ちもあり、握手等の接触にも(そもそも個人的にアイドルの握手会自体にそこまで価値を感じないので)興味がなかったのでとにかくライブを楽しみにしていた。


アイドルファンの分母が増え、若いファンも増えたことで、「ピンチケ」という単語に全てが集約されていくように、(もちろん以前から存在した永遠のテーマであるけれど)ライブマナーや応援スタイルの共有について、様々なアイドル現場において苦言が呈されている印象がある。ネット上の反応を見た限りでは、9nineでも無料のリリースイベントでは同様の問題が指摘されていたが、無料なのである程度は仕方がないものであろう。
しかし今回の品川ステラボールでのライブでは、もちろんそのような問題が完全に払拭されていたとは言えないが、しっかり4000円程度の入場料を課したことで、騒ぎたいだけのファンは殆ど見られず、にも関わらず1列目の最後尾までほとんど席が埋まっていた。
近年のアイドルブームにおいてアイドルの魅力としてよく語られる要素として、会場の熱気・一体感があげられる。そしてそれらを生み出すために、ファンと「お約束」のやり取りを行う自己紹介文化が広まっていたり、ファンの側でもMIXを始めとしたコール(&レスポンス)などの文化が共有されている。
だが、熱心な9nineファンがステラボールに集結し、会場全体が一体感に包まれていたかというと、そうではなかったように思える。サイリュームだけは公式グッズでもあるしさすがに基本中の基本ということなのか多くの人が用意して振っていたが、色つきの公式Tシャツを着ているファンも他の現場に比べると少ないし、MIXはおろか、PPPH、オーイング(Bメロで多用される、「オーー!!」という掛け声)、名前コール(同じくBメロで多用される、本来PPPHが入る所でメンバーの名前を叫ぶ)が殆ど見られない。今思えばジャンプをしている人もほとんどいなかったし、本当に「オイ!オイ!」という基本中の基本である掛け声以外が入ることはなく、実に快適にステージを見ていられた。
だが、これは例えば「9nineはあくまで「パフォーマンスガールズユニット」だからアイドル文化とは違うのだ」という9nine文化が共有されているといったわけでは決してなかったように思える。例えば同じく「パフォーマンスガールズユニット」という枠で括れそうな東京女子流の現場だと、ファン自体はアイドル現場慣れしている雰囲気があるが、「女子流の空気」を創り上げようという意思の共有がしっかりされている印象があるのとは対照的だ。曲調・ライブの少なさ、様々な理由が考えられるが、自分を含め、単純にテレビで9nineを見て好きになったライトファン層が非常に多かったのではないだろうか。メンバー別のカラーTシャツでも一般世間で圧倒的な知名度を誇る川島海荷の青色Tシャツの数が断トツで多かったが、他のアイドル現場の経験からすると、メンバーの人気というのは一般的な知名度とは必ずしも比例しないイメージがあるので、このあたりが9nineの特徴として指摘できるかもしれない。これは完全に主観的な観察なのだが、ハロプロや地下アイドル現場に通い慣れると、なんとも言えない「アイドルヲタ」の雰囲気を感じ取れるようになるのだが、入場待ち中の9nineファンからはそのような雰囲気を纏っていない人が多かった。
ライブ中もサイリュームを目の前に縦に振るだけの人が多く、誤解をまねくかもしれないがジャニーズコンサートと似た雰囲気を感じた。一番印象的だったのは、アンコールの場面である。手馴れた若いヲタが「ナイン!ナイン!」というアンコールを始めようとした(アイドル名をアンコールで叫ぶのはある種のお約束である)のだが、全く会場に広まらず、アンコールが中断されてしまった。その後ようやく通常の「アンコール!アンコール!」という方式で再開されたのだが、席に座っているだけの人がとても多く、声を出している(出し慣れている)ファンは非常に限られていた。


アンコールの話を先にしてしまったが、開始前からこのようなどこか一歩引いた雰囲気に包まれたファンを前にして9nineが会場を盛り上げられるのか心配になったが、それは全くの杞憂であった。1曲目の「チクタク☆2NITE」で、サビの「負けない泣かない諦めない!」という早口のセリフをCD音源とは全く別の歌い方で会場のファンに向かって投げかけた瞬間がとても象徴的であった。9nineの大きな魅力の一つである生歌、声の力強さで会場を沸かせると、サビの長針と短針を両手で示す印象的な振り付けでダイナミックな動きを表現する。9nineはこれまでもヘッドセットが標準装備であり、マイクを持たなくていいために特にシングル曲では両手の動きを魅せる振付が独特である。ヘッドセットでしっかり歌う、同時に両手を大きく動かしながら踊るという2大ポイントを1曲目の「チクタク☆2NITE」からぶつけてきたのだ。

両手をグルグルと回す振り付けは「これぞ9nine!」と思わせる力があり、見ていてとても気持ちがいい。9nineは「パフォーマンスガールズユニット」を名乗るのだが、その割には歌も踊りも飛び抜けて上手いかというとそうではない。かんちゃん・ヒロロの2人という歌と踊りの核は揃っているものの、その2人を必要以上に特別視しない。特にダンスにおいてその意識は顕著であり、9nineはダンスフォーメーションにおいて縦横斜めのラインを形成することが多いのだが、「横並び」が意識されているし、センターポジションも(基本はかんちゃんだが)すぐに変わっていく。特にヒロロの扱いについて思うのだが、ああいう背が小さくてダイナミックに踊れる子を中央に置くと素人目に見ても見栄えがいいのは明らかなのだが、そのような形式に甘えない。ヒロロ1TOPセンターのフォーメーションは普段は懐にしまっておくのだから出てきたときにはより目立つし、それ以上に海荷センターという伝家の宝刀も隠し持っている。ラインダンスでは曲の泊に合わせてメンバーが一人づつポーズを決める動きが多用されるのが目立つ(これはGO!GO!9nineの時に「SHINING☆STAR」のPV撮影の時に特に取り上げられていた記憶がある)。9nineのダンスは全体的にタイミングタイミングでぴたっと「静止」を挟むのが特徴のように思える。手を振り回す「ぐるぐる」と体全体を止める「ぴたっ」、この2つの動きを5人全員で作り上げているのだ。
しかし今回はワンマンライブということもあり、ソロダンスコーナーが用意されていて、普段意識されている「5人揃ったダンス」とは違った趣きを見ることができた。ダンサブルなバックミュージックが流れる中、「誰から行く?」「うみか、踊りたいの!?」などの茶番を挟みつつ、かんちゃん→ちゃあぽん→海荷→うっきー→ヒロロというこれしかない順番でソロダンスを披露していく。大人の色気ダンスで貫禄のかんちゃん。海荷とかんちゃんの橋渡しであることは明らかだが初期メンの意地を見せるちゃあぽん、踊れないのは皆わかっている中で挑戦を見せ、最後は優雅な投げキッスで彼女らしい魅力を振りまく海荷、サタデーナイトフィーバーポーズとモンキーダンスで場を盛り上げるうっきー、満を持してラストを締める、全身を使ったパワフルなダンスとCross Overのプロペラダンスを3倍くらい強化したような腕の振り回しをみせる圧巻のヒロロ。かんちゃん・ヒロロは言うまでもなく素晴らしくかっこ良かったし、ラストのMCで海荷が「私はダンスも歌も自信がなかったけどようやくみんなに見せられるくらいになった」と自信を持てるまでになって披露したパフォーマンスのよかったし、ある意味海荷は下駄を履かせてもらっているのに比べて立場の難しいちゃあぽんとうっきーも意地を見せた。ライブ中で2番目に観客が湧いた、素晴らしいダンスコーナーだった。

さて、普段より広いキャパシティの会場で、ファンの文化が共有されていない中で、メンバーたちがパフォーマンスで魅せる以外に会場の雰囲気を盛り上げていこうと努力していたのは、他のアイドル現場に比べるとやや過剰とも思えるくらいにオーディエンスの反応を求めて事あるごとに煽りを入れていたことからも感じ取れた。今までもライブハウスのキャパでやってきた「Wonderful World」のサビを丸々観客に歌わせるという試みも、なんとか(?)成功させていた。
しかし今回のライブで会場が最も盛り上がったのは、後半に歌われた最新シングル「少女トラベラー」だった。イントロがループする中、「Say-HO!」やメンバーごとにオリジナルのコール&レスポンス(海荷:「いちご!」ヒロロ:「てへっ!」など)から始まった少女トラベラーは、曲自体に特別なギミックがあるわけでもなく、これまで同様特定のコールが発生するわけでもなく*2、にもかかわらずライブのこれまでの流れがこの1曲に集中したかのように説明不能な盛り上がりをみせ、自分自身は「bus stop!」「I can't stop!」という音に乗せられて体が浮き上がっていくような、会場全体が不思議な浮遊感に包まれているように感じた。音源を聞いているときには決して感じることのなかった体験であり、歌・ダンス・コールなど「これ!」という要素で説明がつかない体験は、アイドルが好きで楽しくて、その気持ちをどうにか表現したい・説明したいという一新から始めたはずのアイドル語りがいつのまにかさまざまなものに囚われすぎて穿った見方をしてしまいがちだった最近の自分にとって、アイドルのライブにハマりだしたころの純粋な気持ちを思い出させてくれる、新鮮なものだった*3。そしてその説明不能な輝き、それが自分がアイドルに求めているものだったと最認識させてくれた。

自分自身がライトファンということもあり、旧体制の1st・2ndアルバムの曲があまり頭に入っていなかったがそれでも十分に楽しめたので、前回のエントリで書いた「9nineはテレビで見たい」と書いたことに通じるかもしれないが、「敷居の低さ」を感じた。何度も繰り返すように、最近の日本のアイドルに多いタイプの、特定のアイドルの文化圏に身を投じる・同化していくハイコンテクストな楽しみ方とも違うし、かと言って文化・知識の共有を前提とせずにローコンテクストながら圧倒的なパフォーマンスで魅せるタイプでもない、一見平凡ながら明らかに非凡、そんな不思議な魅力をライブ会場でも存分に見せつけられた。


今後9nineが今まで以上にテレビメディアに進出しパイを広げていく中で、なにか独特のファン文化・9nine文化が生まれていくかもしれない。だが、ラストのMCでちゃあぽんが姉・Perfumeあ〜ちゃんこと西脇綾香から教わったこととして、現状自分ができることを支えてくれるファンに精一杯返していくこと、それに尽きると言っていたように、やっかいな演出あるいは物語にまきこまれずにありのまま・等身大の9nineの煌きをこれからも見せて欲しいと思った。これは言い過ぎかもしれないが、どちらかというとファン主導で奇跡のサクセスストーリーを成し遂げたと語られるPerfumeを身近で見てあるいはアドバイスを受ける立場にあって、この時代には珍しく(「ファン主導」が強調されがちなだけで全く珍しくはないのだが)Perfumeとは対照的にテレビメディア主導でステップアップしつつも、テレビ資本につきまとういやらしさに飲み込まれない9nineの輝きを受け止めていきたいと思った。


少女トラベラー(初回生産限定盤A)(DVD付)

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*1:私の優しくない先輩」は超名作だと思う。過去に2回もエントリを書いてしまった ?http://d.hatena.ne.jp/nhokuto/20100725/1280086056 ?http://d.hatena.ne.jp/nhokuto/20100803/1280845013

*2:ニコニコ生放送タイムシフト放送を見ると、夜公演ではオーイングが聞こえていたが

*3:といっても、いまここで書いているように「そのよくわからないものを語りたい気持ち」からは抜け出せないのだけれども。