Berryz工房の4年間 『ジンギスカン』から『cha cha SING』

2012年7月25日にBerryz工房29枚目のシングル『cha cha SING』が発売された。タイの人気歌手・俳優のBIRDことトンチャイ・メーキンタイのカバー曲ということだが、初めて音源を聞いた時に久々に「これだ、これがBerryz工房なんだ!」と得体の知れぬ確信とともに拳を握りしめてしまった。近頃はどこか自分の中でBerryz工房に対する熱意が低下していくのを寂しく思っていたところに、突然Berryz工房が「帰ってきた」感覚。帰ってきたと書くのはおこがましいかもしれない。自分が変わったのか、それともBerryz工房が変わったのか。あるいはその両方か。なにをもって「Berryz工房らしさ」とするのかは人それぞれだが、個人的には、まじめにふざける、バラバラな7人があらゆる方向に飛び散る中一瞬だけ同じ方向を向いてしまった時の爆発感、そんなところに「らしさ」と「良さ」を感じているのだろう。幸運にもその一致した方向に自分もまた向くことができた瞬間の熱狂、そういったものに感動したのかもしれない。

また、この曲を聴いた時にすぐに思い浮かんだのが『ジンギスカン』である。2008年3月12日に発売されたBerryz工房16枚目のシングル。ドイツのアーティストDschinghis Khanが1979年に発表したかの有名な『ジンギスカン』のカバーであり、『cha cha SING』からこの曲を連想する人も多いだろう。これまた個人的な話になるが、自分がBerryz工房が気になり始めたのが2007年末に『付き合ってるのに片思い』がリリースされた頃であり、ジンギスカンは自分にとって初めてのBerryz工房の新曲であった。そのジンギスカンに衝撃を受け、こんなにおもしろい、ぶっ飛んだアイドルが居るのか!と夢中になったことをよく覚えている。ジンギスカンは今でもBerryz工房の中でトップを争うほど好きな曲であり、ある種の原体験でもある。Berryz工房に夢中になり始めた頃の思い出をどうしても重ねてしまうのが『cha cha SING』であり、思いを整理するためにも、ジンギスカンからcha cha SINGまで、Berryz工房が4年間でどのように変わったのか、または変わらなかったのか、その魅力はなんなのか、なんだったのかを振り返ってみたいと思った。



メンバー

夏焼雅

ジンギスカン

cha cha SING』 ゴージャス!

cha cha singのセンターは夏焼雅さん。常にメインボーカルの一角を占め、安定感のある歌とダンスでBerryz工房を支えてきたが、いよいよセンターに。近年は「姉」としてメンバーを気遣う様子も目立ち、心技体それぞれ大きな成長を遂げた。「踊る阿呆だけどただの馬鹿じゃない」は彼女が歌うと深みがあるような無いような。

嗣永桃子

ジンギスカン』「ももち結び」をしていないほうが多分可愛い

cha cha SING』 お馴染みの「ゆるしてニャン」

そろそろお茶の間にも浸透してきたかもしれないももちこと嗣永桃子さん。バラエティでは孤軍奮闘だが、ステージではまた違った形で自らの役割を全うしている。グループアイドルのダンスは大きく動いて目立てばいいというものでは決して無い。しかし、身体が小さいメンバーは多少大きく動くことも許される。桃子は、「悪目立ち」にならない加減において、自らの色を出すのが非常に上手い(具体的には腰・お尻の振り方)。
また、彼女はおそらくこの4年間で最も歌がうまくなったメンバーである。派生ユニットのBuono!での経験が生きているのか、声色と歌唱の幅が非常に広がった。今作でも首を平行移動させている独特の踊りを歌でそのまま表現しているような不思議なビブラートを披露しており、芸達者。

熊井友理奈

ジンギスカン』お美しい

cha cha SING』「ヒロインになろうか!」の熊井観音を思わせる仏の美しさ

長身アイドルでお馴染みの(?)熊井友理奈さん。しかしBerryz工房は凸凹過ぎて熊井ちゃんをセンターに置く時以外はそんなにその長身が悪目立ちすることもない。相変わらずの美しさに加え、最近ではマイペースに仏としての美を追求している(してない)。
いい意味で変わらない方のメンバー。ハスキーボイスは紛れも無い魅力であり、今回もおそらく意図的に熊井→嗣永という順番のパート割がいくつも設定されており*1、嗣永の甘い声とセットで非常に幅が出て面白さが生まれている。『ジンギスカン』ではソロパートが非常に少なく全体的にユニゾン主体だったのと対照的である*2

須藤茉麻

ジンギスカン

cha cha SING』メンバーの中で一番衣装が似合ってる

Berryz工房の母、須藤茉麻さん。母としての温かみが体型に現れる時期もあるけれど、現在はかなり絞られていて、健康的な美しさを放っている。アジアンテイストな雰囲気にぴったりで、現在唯一の黒髪ロングのストレートがメンバー全体の絵に締まりを入れている。

清水佐紀

ジンギスカン』ピスタチオの面影

cha cha SING』 困り顔が変な顔で可愛い

黒髪を真ん中で分けたショートカットが「ピスタチオ」に似ていると言われていた頃の面影がぎりぎり残っている『ジンギスカン』から、その後エクステやおめめパッチリメイクで雰囲気をガラリと変えた様子がありありと『cha cha SING』で現れている。
ダンスの腕は一級品とよく言われるが、今作のようにハードに踊るわけではない振り付けでわざわざ自分を「魅せつける」ことは決してしないのがキャプテンの矜持。何気なく全体を見ていると気づかないけれど、よくよく見ると細かい動きが飛び抜けて洗練されていることに驚く。

徳永千奈美

ジンギスカン』ホームランを見送る図

cha cha SING』なんていい顔

cha cha SING』は彼女のためにある、と声を大にして言いたくなる、徳永千奈美さん。上の画像を見るだけでもわかるムードメーカー。今作では特設サイト(http://www.up-front-works.jp/chachasing/)に「徳永千奈美のタイ訪問記」というコーナーが設置され、twitter(http://twitter.com/tokunagachinami)も開始するなど絶好調。底抜けの明るさに、微妙に波のあるヤル気が噛み合った時がBerryz工房の輝くとき。千奈美が楽しそうにしているMVは良いMV。

菅谷梨沙子

ジンギスカン』不動のセンター

cha cha SING』見よこの迫力

いよいよ最後、菅谷梨沙子さん。Berryz工房のこの4年間を語る上で、彼女の進化を書かずにして何を書くのだろうか。写真を見比べるだけでも、別人のような迫力に。『cha cha SING』でのなんとも表現しにくい髪の色は彼女にしか許されないものである。イナズマイレブンシリーズを担当した時期に、梨沙子はこれまでも隠し持ってきた、ド迫力の低音の唸りや時にがなるような歌唱を解放した。大きな意味で自己表現をするようになった梨沙子は、Berryz工房のお姉さん6人が守るべきセンターではなく、もはやセンターの座を他のメンバーに明け渡したとしても、どの位置にいても、どのパートを歌ってもBerryz工房という力学の中心に位置する存在として梨沙子は威圧感を放ち続けている。

変顔とアイドルの闘争

アイドルは「変顔」をするものである。そんな風潮が最近定着してきたかもしれない。「アイドルは変顔をしない」というぼんやりとした固定概念を崩し、変顔をすることで既存のアイドルのイメージにとどまらない面白い・新しいアイドル像を発信する。次第にそんな風潮そのものが逆に一般化するようになってきた。アイドルのめまぐるしく変化するイメージ闘争の常である。
そんな中、惜しげもなく鼻の穴を見せてしまう雅と梨沙子。これは「変顔」なのだろうか。客観的に見れば「変顔」かもしれないが、この2人が意図して「変顔」を作ったというわけでは無さそうである。己のパッションを表現したら結果こういう顔になった、ただそれだけのことのように思える。つい「Berryz工房が”変顔”の概念を破った」などとそれらしいことを言いそうになってしまうが、もちろんそんな仰々しいのは受け手の勝手な妄想であり、等の本人たちは結果変な顔になったらなったで面白い、程度のことなのだろう。
変顔を例に挙げたが、これだけアイドルブームが巻き上がる中で、8年のキャリアがあるBerryz工房がどういう立ち位置をとっていくのかというのは難しい問題である。いかに「我関せず」という態度をとっていたとしても、否応無しに闘争に巻き込まれてしまう。どうやっても意識せざるをえないだろうし、ファンは勝手に他のアイドルグループと比較を試みる。あるいは逆にその闘争に加わらないことを特権的に持ち上げる。どちらにせよブームの渦中にあることからは逃れられない。
ただ、そういった渦中にあるなかで、Berryz工房は自らと向き合いながら変わり続けてきたし、ある部分では変わらないものを持ち続けてきただろう。それは今回4年前というアイドルブームの萌芽がみられた頃の『ジンギスカン』と今回の『cha cha SING』を単純に比較しただけでも様々なものが見えてくる。
自分はある時期からちょっとBerryz工房についていけないかもしれない、という思いを抱いていた。Berryz工房自体はいつだって大好きだと胸を張って答えることができたが、具体的に新曲が好きか、コンサートツアーが同じ公演に何度も足を運ぶほど好きか、そう問われるとNOであることも多かった。だが、今回『cha cha SING』で思ったのは、常にアイドルの全てが好きである必要はない、ということだった。Berryz工房の良さとして、最初に「バラバラなメンバーが同じ方向を向いた時の爆発力」、と答えたが、Berryz工房全体として様々な方向に舵を取っていたとしても、いずれその方向が自分自身の方向と合致したならば、その瞬間にいつでもBerryz工房という船に迷いなく再び飛び乗って「踊る」ことができる、という嬉しさを感じた。時には船から降りて外から見守ることも決して悪いことではない。そんな心の余裕を今後は確信を持って持ち続けられるだろう。これは言いすぎかもしれないが、そんな「わがままな安心感」がBerryz工房が持つアイドルブームの中での大きな魅力なのかもしれない。

「踊る阿呆だけどただの馬鹿じゃない」

ジンギスカン』気ままに踊る幼稚園児

cha cha SINGフラッシュモブ・屋外編

cha cha SINGフラッシュモブ・屋内編

cha cha SING』では「アイドル初の試み!」と題してフラッシュモブ風動画に挑戦している。本当にアイドル初なのかといった疑問や、フラッシュモブのクオリティ自体はさておき、今回フラッシュモブと公言して公開された動画はなかなか示唆にとんでいるかもしれない。
その前に、もう一度『ジンギスカン』MVを見てみよう。カバー曲という点のみならず『cha cha SING』との大きな共通点なのが、Berryz工房と一緒に踊る人々(幼稚園児)が出演しているという点だ。他のアイドルMVや映画など他ジャンルを見渡せば、アイドルと一緒に踊る人々というモチーフはいくつもみられるのだが、Berryz工房においてこの図式が使われているのはおそらくこの2作品だけだと思われる。
しかし、この2つには大きな違いがある。『ジンギスカン』では、基本的に園児たちはBerryz工房と相対し、メンバーはステージで、園児は客席で自由に踊っている。ここではわざわざ指摘するまでもなく、園児たちはヲタを表している存在である。ヲタは基本的にアイドルの踊りを教授する側であり、ただそれに反応して自由に踊ることもある。
一方、『cha cha SING』のフラッシュモブ動画では、最初は突然「街(ステージではない)」に出現したBerryz工房に驚き、彼女たちを取り巻いて携帯で写真を撮る「傍観者」であった人々が、次第にメンバーとともに同じ方向を向いて・同じ振り付けで踊りだす。ここではジンギスカンと違って踊る人々が「アイドルヲタ」という狭い存在ではなく、Berryz工房は街=タイ=世界に開かれた存在であり、多くの人々と別け隔てなく一緒に踊るという点が強調されている。『cha cha SING』の踊りは原曲のダンスとほぼ一緒なのだが、『ジンギスカン』に比べるとかなり簡単で、一度見ただけで普通の人々が真似できるものになっている。正直Berryz工房のダンススキルから考えると勿体無いけれど、それでいて「Berryz工房らしさ」を感じさせる踊りだ。
cha cha SING』の歌詞はプロデューサーのつんく♂氏が原曲の直訳を参考に彼なりのアレンジで書きなおしたものである*3。それを見てみると、「ちょっと太ったのが気になるの 君らしくないな」「君のことが心配だから ついおせっかいばかり」というように「君」との一対一の関係性から「愛叫び平和願う 世界に響けsing a song」と一足飛びに世界平和を歌う、ファンにはお馴染みのつんく節が散りばめられている。例えば「LOVEマシーン」の歌詞をみればわかるように、つんく♂氏は一貫して「世界(宇宙)」と「踊る」ことを歌詞で描いてきた。個々のアイドルの戦略としてアジア・世界にターゲットを広げるという現実的な話とは別次元で、カバー曲にもかかわらず「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損!」と「世界平和」を強引に結びつけてしまう『cha cha SING』の精神は苦笑いしつつも天晴なものである。最後に言うならば、それをひねった「踊る阿呆だけどただの馬鹿じゃない」という言葉はなかなかインパクトがあり、これまたBerryz工房らしい強さを感じるのだった。
こんなにポジティブに"踊る"ことをプッシュされてしまったら、また自分もBerryz工房の手のひらの上で、いや、一緒の地平線で同じ方向を向いて"踊"らずにはいられない、そう思ったのだった。


*1:特にサビでの細かい区切りが特徴的:愛叫び【熊井】 平和願う【嗣永】

*2:とはいってもBerryz工房は昔からシングル曲では各メンバーのソロパートは比較的多めに用意されており、ジンギスカンが特殊であるのだが

*3:http://www.tsunku.net/pw_Music.php