cheerfu11y感想/アイドル映画の未来


シネマート新宿の公開最終日に滑りこみで『cheerfu11y』を観てきた。ユニバーサルJ主導で主演は吉川友。以前のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/nhokuto/20110430/1304172287)やアイドル領域vol.3(http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%AB%E9%A0%98%E5%9F%9FVol-3-%E6%96%A7%E5%B1%8B/dp/B005HI31IS)で取り上げた映画『きっかけはYOU!』の出来が非常によく、同時に映画として根本的な問題点も抱えていたため、予告編や趣旨を見て期待は出来なかったものの吉川友主演映画第2弾としてこの『cheerfu11y』も劇場に足を運ぶことにした。また、今年4月にももいろクローバーから脱退した早見あかり吉川友と並ぶ位置にクレジットされていたため、彼女の演技にも期待を持っていた。

結論から言うと、かなり低く設定したはずのハードルのさらに下をやすやすと潜られて言葉にならなかった。80分の映画だったが、辛すぎて3時間くらいに感じられた。
内容を一行で要約すると、田舎の女子高生がふとした問題がきっかけで団体競技に挑戦、衝突を超えて団結、ラストの実演で大団円、というものである。ウォーターボーイズを筆頭に、スウィングガールズ書道ガールズといったいわゆる「矢口史靖」系のテンプレ通りにアイドルたちを当てはめていけば最低でも60点の映画が完成したはずなのだが、それすらもこなせていない頭を抱えたくなる出来であった。

まず、最大の見せ場であるラストの大会にむけた山場が設定されておらず、非常に盛り上がりに欠けるのが大問題である。日めくりカレンダーが一枚ずつ破られていく描写があるが、特に事件が起きるわけでもなくあっという間に大会当日の8月30日を迎えてしまい、拍子抜け。後述するが11人のキャラクター付けと関係性の構築に失敗しているため、本来であればこのような作品のメインテーマである「団結」が描かれ山場となるべき出番直前の円陣のシーンも、団結はおろか各キャラクターの本番にかける意気込みすら伝わってこない。

「矢口系」映画では、題材となる競技・演目に関しては素人である俳優・女優陣が真剣に練習を重ね、本番では共に練習を重ねた共演仲間と共に本気で演目に挑むことで演技以上の「ガチ」な姿をフィルムに収めるという手法が取られることが特徴であるが、この点でも今回の映画には難がある。11人はアイドルとして活躍中であり、当然全員ダンス経験者である。さらにメンバー内にはチアダンス経験者も存在する。そのため皆そこそこ踊れてしまうため、脚本の問題と相まって「素人メンバーが必死に練習して団結して結果を出す」際の緊張感が妙に感じられず、その上アイドルダンスとチアダンスは根本的に動きが異なるため「チアダンス」としては洗練されていないというちぐはぐな結果となっている。また、劇中でも「団結」の言い換えである「フォーメーション」の重要性を強調するが、演目中のシーンでカットを割りすぎて全体像が見えづらく、フォーメーションがそもそもよくわからない。また、演目の最初で真上から見た際にニコちゃんマークに見えるようなフォーメーションをつくるのだが、それは観客から見えないから意味が無いのでは?という疑問も抱いた*1


次に、この手の映画の醍醐味その2とも言える、物語全体を通じた問題発生→解決のプロセスと、メンバー集め→反目→団結というテンプレの流れがとにかく雑である点が非常に気になった。今回の映画では主人公の吉川友が乗り越えるべき問題がメンバー間の問題ではなく、姉の妊娠と母との反目という「母子家庭」に焦点を当てたものになっている点がテンプレ外れである。しかしこの2つの設定が物語の必然性なく唐突に挿入され、物語の外にいた主人公の姉が突然クローズアップされる点に大きな違和感を感じざるを得ない。吉川友のキャラクター設定という面でも、前半の学校のシーンで見せる適当な性格から後半の責任感の強い姿へのギャップが描かれる中で、姉や母との問題が生じるシーンで憂いのある表情を見せたり涙を浮かべたりといった吉川友が非常に「画面に映える」シーンが用意されているものの、肝心の物語の流れが頭突すぎるため、視聴者として彼女の涙に感情移入できず置いてきぼりを食らってしまう。


キャラクター設定という点では、主演の吉川友以外の10人に関してとにかくお粗末であった。特にポッシ秋山ゆりか演じる数学研究部がひどい。巨大分度器を持ち歩くという設定もさるものながら、巨大そろばんやルービックキューブといったアイテムもギャグにしても失笑すら起きない有様である。全体的に悪意があるのではないかと勘繰ってしまうほどアニメ的にデフォルメされたキャラクター造形であり、アイドルとキャラクターという繊細な要素以前の問題である。タイトルにも11という数字が入っており、全員(アイドルファンにとって)それなりに知名度のあるメンバーを使った割には11人の個性を描くことにも団結を描くことにも失敗している。

また、ある程度「映画の顔」を見せることに成功していた吉川友に比べ、もう一人の主演級としてキャスティングされた早見あかりの扱いが恐ろしかった。先ほど指摘したようにメインの物語は吉川友の家族問題であるのでそこに早見あかりはほとんど絡むことなく、友情物語が描かれるわけでもなく、さらに『私の優しくない先輩』のように過剰なモノローグが早見あかりの声によって過剰に挿入されることで大きな問題が生じている。『私の優しくない先輩』でも川島海荷による過剰なモノローグ挿入は一部で大きな批判を受けていたが、同作の場合は世界が主人公の内面世界と半分同化しているという世界観を描き出すという必然性があったところ、今作品ではそのような必然性は皆無である。早見あかりは漫画部という設定であるが、何故か本人も周囲のメンバー以上にアニメ的な極端なキャラ設定が付与されており、漫画における心理描写のセリフに当たるモノローグの存在によりそのアニメ的な側面が悪い方に強調されている。ユニバーサルJの公式HPでは出演者について「今話題の女性アイドル&女優」という表記があるが、この「女優」に当たるのは実質的にアイドルグループに属していない早見あかりのみである。それにもかかわらず、他のアイドル達以上にアニメ的なキャラクター造形と演技を強いられる早見あかりの姿がとにかく不憫に感じられてしまった。吉川友とおなじく、繊細な表情で勝負できると期待していた早見あかりの「演技」「画面映え」はこの映画では発揮されることはなかった。

少し細かい部分へ目を向けることにする。今作の舞台は「北関東」*2であり、田んぼが広がり単線の電車が走る横を自転車に乗った女子高生が走る姿は「お約束」ではあるものの見所の一つである。それならばもっとこのような風景描写のシーンを増やしても良かったのではないだろうか。今作でもぱすぽ☆安斉奈緒美が演じるファッション部部長は実際には訪れたことのないにもかかわらず「渋谷では〜」というのが口癖である。これも非常に極端なキャラクター造形であり、例えば『スウィングガールズ』でも田舎のヤンキー女子高生メンバーが溶接業を営む昔の彼氏の同級生に壊れた楽器の修理を頼むという笑えるかつ物語に必然性を持つ形で田舎描写を自然に行なっているのとは大きな違いである。
おなじく『スウィングガールズ』との比較で言うと、同作では顧問の竹中直人が非常に魅力的なキャラクターを持ち物語に関わっていたが、今作で似たような位置にいる校長は吉川友に「カマ野郎」呼ばわりされる割には特に重要な役目を持たず、その割には最後の演目のシーンでは客席で泣いているのでこれまた違和感を感じてしまった。


最後によかった点をいくつか指摘するとしたら、やはり自転車の通学シーンだろうか。アップアップガールズの森咲樹にヘルメットを被せている点と、早見あかりがなぜかミニベロに乗っていて皆から遅れながら全力でペダルを漕いでいるシーンは、早見あかりとミニベロという組み合わせの妙もあり面白かった。


苦言を呈し続けて終わってしまったが、アイドル映画は果たして過剰なキャラクター付けをそこまで必要としているのか、そして吉川友早見あかりといった「女優」に近い位置に立つアイドルを揃えながら、彼女達の女優としての演技力の見せ所を作ろうとしない映画作りの方針という根本的な疑問を感じた。
吉川友主演の前作『きっかけはYOU!』は、巧妙なプロットによりアイドル性と女優としての演技力の両立を成し遂げた名作だったといえる。しかし、吉川友のプロモーションという位置づけから考えると完全に失敗しており、構造的にもラストシーンに吉川友本人が登場するという面白みは同時に大きすぎる制約にもなっていた。そして今作では単純化がおこなわれ、娯楽としてのシンプルなアイドル映画が目指されていたようだったが、今度は単純にその内容が陳腐であった。

シネマート新宿は今後改修予定であり、ライブ中継、イベント、(『きっかけはYOU!』でも披露された)ミニライブなどを本格化させるという。今作が東京ではシネマート新宿とユナイテッドシネマ豊洲という2ヶ所でたった一週間のみ上映され、渋谷AXで行われたライブや握手会付きの上映会が3000円、舞台挨拶付きの回が2500円であったことなど、映画という媒体にもかかわらずアイドル本人達の動員が当然視されている現状がある。明日から公開予定のBuono!が主演する『ゴメンナサイ』も現状発表でユナイテッドシネマ豊洲の上映期間が5日間しかなく、舞台挨拶の回が今作と同じく通常1800円から2500円に上乗せされた上で4日間連続で設定されている。もはやアイドル本人の登場が前提であり、それを目当てに客を呼んでいるも同然である。『きっかけはYOU!』でも3700円と非常に高額の値段設定にもかかわらず、少数の熱心なファンがライブ及び握手会を目当てに複数回鑑賞に訪れていた。しかし『きっかけはYOU!』本編自体の意欲的な作りに関する評判はほとんど広まることはなかった。
このような状況ではアイドル映画はCD業界における現状と同じくアイドルイベントの付属に過ぎないものとなってしまい、ますます内容が疎かになることを危惧せざるをえない。満島ひかり瀧本美織という例外は存在するものの、アイドルと女優の壁は高く、今後も作品レベルでますます両者が切り離されてしまうのではないだろうか。単につまらないというだけでなく、吉川友早見あかりというその壁を越えるだけの資質を備えていると思われる人材でこのような映画を作ってしまうことに大きな失望を覚えた。


『アイドル映画』というジャンルの存亡、そして女優/アイドルという壁を超えてアイドルファンのみならず外部訴求力を持って羽ばたいていくようなアイドルたちの未来のためにも、吉川友そして早見あかりの次回作に期待したい。

*1:批判ばかりだが、メンバーがデザインした7分丈パンツの衣装を一瞬で脱ぎ捨ててミニスカート姿に変身したシーンは良かった。しかし森咲樹が「スカートは恥ずかしい」と言って拒否したために7分丈デザインになったはずなのにミニスカでいいの?という疑問は残るが。

*2:ご存じの方も多いだろうが、吉川友の出身は茨城県である。また、吉川友が家族のために料理をつくるシーンで実際に吉川友の「特技」とされているキャベツの千切りが2回も披露されたという小ネタもあった。しかしこのような小ネタが見所というのではあまりに悲しい