12/15 モーニング娘。コンサートツアー2010秋 〜ライバル サバイバル〜 亀井絵里・ジュンジュン・リンリン卒業スペシャル@横浜アリーナ/流れ行く時間と必然性の物語


物語は自動生成される。人は皆代替可能な存在であり、アイドルとて例外ではない。競争原理などインセンティブをもたらす一定の条件を付与しシステムをデザインすれば、あとは勝手にプレイヤーも消費者も個々としてはある程度のばらつきを持った特定の範囲の行動原理に従うだけで、物語が創発する。細分化したコミュニティの中で、その物語は神話となる。



そんな典型的なゼロ年代批評的視点を吹き飛ばす、横浜アリーナのほぼ全方位を埋め尽くすサイリュームの光による圧倒的な輝き。開幕はレインボー以上に多彩な色が揺れ、曲が始まればその個々の点が誰に指示されるでもなく一つの生き物のようにうねる。僕たちは個々の光でもあり、全体として一つの生物である。アイドルと1対1の物語を胸に秘めながら、会場が一体となって新垣里沙が言う「横浜アリーナの伝説」を創り上げた。


モーニング娘。」とは実に観念的な存在である。ハロープロジェクト内で特権的な地位を与えられたグループ。どんなにキッズメンより後から加入しようとも、先輩。現状のアイドルファンの大多数は、かつてこのグループを通過してきたであろう。一般的な知名度は非常に高いが、OBはともかく現状の個々のメンバー知名度は恐ろしく低い。


その圧倒的なブランドと名を背負うメンバーの重圧は計り知れない。個々のキャラクターがOBに比べて弱いと指摘されるのならば、なおさら。かつて活躍したOBが一人また一人去って行っても、名は残る。「モーニング娘。」が表すものとはなんなのか。

かつては個々のメンバーのキャラクターが非常に立っており、グループ内で競争原理が働いていたため、相互刺激によりモーニング娘。は成長を続けた。だが、いつしかその性質が変わっていったし、単純な「成長」は止まったように見えた。高橋愛の文句を言わせないステージ上の実力。新垣里沙モーニング娘。への計り知れない愛とマザーシップ。5期メンバーの2人支える現在のモーニング娘。は、非常に長い時間をかけ、9人体制そして久住小春の卒業以降の8人体制で完成度を高め、いつしかハイレベルのパフォーマンスを売りにするアイドル集団となり、今ツアーではその完成形を我々に見せつけてくれた。


時が流れるにつれ、ゆっくりと変容していく「モーニング娘。」。癖の強い独特のキャラクターと魅力を持つ田中れいな。毒舌と「可愛い」の道重さゆみ亀井絵里はそんな2人を結ぶ「6期の絆」の中心だった。ジュンジュン・リンリン、そしてリーダーの高橋愛が何度も繰り返す、「家族のようなモーニング娘。」。若さと勢いが求められるアイドルにとって、このような生ぬるさや悪く言えば停滞感はしばしば批判の対象となる。しかしその批判に負けず、モーニング娘。は熟成を重ねた。8期メンバーの留学生。中国人2人の加入は、当時娘。にそれほど興味のなかった自分にとっても「はぁ?」という印象だったし、ファン、そしてモーニング娘。メンバーにとっても大きな驚きと反発があっただろう。事実、今日の卒業コンサートではそのようなエピソードがなんども語られた。しかし、やはり3年半というアイドルグループにとって長い長い時間を重ね、メンバーとファンはこの2人を「モーニング娘。」の一員として受け入れた。


モーニング娘。が「メンバー加入・脱退によって鮮度を保つ」というシステムを搭載したアイドルグループであり、いまやそのシステムが機能不全に陥って全体として没落した。そんな批評は聞き飽きたし、そもそもそれはモーニング娘。を捉え損なっている。常に寿命と戦わなければならないはずのアイドルにとって長い長い時間を重ね、「モーニング娘。」という圧倒的なブランド・看板を掲げながら、ゆっくりと内面を変容・熟成させていった。亀井絵里・ジュンジュン・リンリンという3人は決して代替可能なメンバーではなかった。6期の3人でしかできない「大きい瞳」。8期の2人にしか歌えない「雨の降らない星では愛せないだろう?<中国語ver>」。そして8人でしか歌えないラストの「涙ッチ」。代替可能で自己生成するはずの物語を、長い時間のもとでメンバーとスタッフとファンが「モーニング娘。」を「必然性の物語」に育てていった。


その必然性の物語は、今日の卒業コンサートでひとつの終わりを迎えた。6期の絆。2人の留学生の物語。8人のパフォーマンスの完成度。そのすべての要素を盛りこみながら、それでいて最初から最後まで3人のために作られたような、素晴らしい卒業コンサートだった。


9期メンバーと新生モーニング娘。という新しい物語の始まりは今夜は語られることはなかった。しかし、卒業は終わりではない。残された5人に新たな物語が待っているように、3人には新しい物語(それは僕達が一緒に紡ぐものではないかもしれないが)が待っている。


亀井絵里はともかく、中国に帰ってしまう2人と僕達が再び出会うことは当分の間、もしかしたら今後ずっと無いかもしれない。だが、モーニング娘。を経て中国でそれぞれ活躍の場を広げる2人が、いつしかアジアのトップスターとして日本に凱旋する。長い間モーニング娘。を見続け必然性の物語を創り上げてきたファンならば、そんな夢物語を願うことも許される、かもしれない*1

*1:自分は今回が初めてのモーニング娘。の単独コンサートでした偉そうなこと書いてスミマセン会場で泣きまくってスミマセン