ジロ・デ・イタリア2010 第19ステージに見るロードレースの面白さ


僕はここ数年ロードレースにハマりにハマって、飲み会では自転車いいよ、ロードレース見るためにみんなスカパーに加入しようぜ、という話を誰彼構わずしゃべり倒している次第です。


さて、グランツールと呼ばれるロードレース界のビッグレース*1のうちのひとつ、ジロ・デ・イタリアも残すところあと3ステージのみ、今日は厳しい山岳ステージということもあり、レースが動くこと間違い無しということで9時半の放送開始からテレビに張り付いていました。


ロードレースは最近ブームとなりつつありますが、現在地上波では放送されておらず、大抵の方はあまり馴染みが無いと思うので、軽く説明をしておきます。
ロードレースには1日で勝負が決まるワンデーレースと、複数のステージに分かれていて各ステージの合計タイムを争う複数日をかけて行われるステージレースがあります。ジロ・デ・イタリアはステージレースの最高峰のうちの一つ、一日大体200キロくらいを走って、合計21ステージで優勝を争います。
各ステージは、ほぼアップダウンの無い「平坦ステージ」や、普通にさくっとアルプスを登って下るような常人からすると有り得ない「山岳ステージ」などがあり、今日の第19ステージは山岳ステージでした。

またこれも案外知られていないのですが、ロードレースは基本的にチーム戦です。各チームは9人大体各チームに1人エースがいて、その他の選手はエースを助けるためにアシストと呼ばれます。具体的になにをするかと言うと、エースの風よけになってエースの負担を減らしたり、水を渡したりします。


さて、第19ステージまでの総合順位は、以下のようでした。

1位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ)       76h26'37"
2位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・ドイモ)      +2'27"
3位 リッチー・ポルテ(サクソバンク、オーストラリア)      +2'44"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)    +3'09"
5位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロテストチーム)   +4'41"
6位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)     +4'53"
7位 アレクサンドル・ヴィノクロフカザフスタン、アスタナ)    +5'12"
8位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)+5'24"
9位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ) +9'21"
10位 ロバート・キセロフスキー(クロアチアリクイガス・ドイモ) +9'32

簡単に上位選手を説明すると・・・
ARROYO David アローヨ:そこそこの強さのクライマー。途中の大荒れのステージで他の有力選手に15分差をつけて、ここ数日マージンを減らしながらも首位をキープ中。
BASSO Ivan バッソ:ドーピング出場停止から復帰した大本命のイケメン、イタリア中が期待するリクイガス(イタリアのチームです)のエース。
PORTE Richie ポルト:期待の新人(25歳以下は新人と呼ばれる)。アローヨとともに15分のマージンを必死に守る。
EVANS Cadel エヴァンス:強面のアルカンシエル(世界チャンピオンのこと)。万年二位。人気者。バッソと並ぶ本命。
SASTRE Carlos サストレ:純粋なクライマー。遅れると見せかけてあとから追いつくのが得意。
NIBALI Vincenzo ニーバリ:バッソと共にリクイガスのダブルエースを張る。隙のないオールラウンダー。
VINOKOUROV Alexandre ヴィノクロフバッソと同じくこちらもドーピング出場停止明けのカザフスタン人。なんか怖い。
Michele Scarponi スカルポーニ:上り強い。冷静。ごめんあんまり詳しくない。
CUNEGO Damiano クネゴ:かつては強かった。どのスポーツにも一人はいる、(笑)が名前の後についてしまうような人気者。クネゴ(笑)


今日のレース状況のテキストライブをリンクしておきます。
http://live.cyclingtime.com/giro/2010/19/index.html


このステージでは、バッソエヴァンスが実力のやや劣る総合首位のアローヨを逆転するかが最大の焦点でした。また、バッソは最終日に残されているタイムトライアルが苦手なため、エヴァンスに対しても差を付ける必要があります。

今日のコース図
http://www.jsports.co.jp/cycle/giro2010/stage/index.html

見ての通り、勝負は後半の2つの山です。
一つ目の山を下り終わった時点で、集団は上位陣を含む30人ほどに絞られていました。
二つ目の山、モルティローロ峠を登り始めた瞬間、ガルゼッリというクライマーがアタック(集団からの抜け出し・スパート)します。総合では順位が劣るためなのか、またガルゼッリのアタックの切れ味が鋭かったのか、誰もついていきません。
集団はバッソとニーバリを擁するリクイガス軍団がペースを上げ、他のチームの選手を振り落としにかかります。実力のある総合上位陣以外はほぼ切り離され、その中からもまずは総合3位新人賞ジャージのポルトクネゴが遅れます。
大抵の選手を振り切るとリクイガスのアシスト達は仕事を終え*2、ついにバッソ自身が先頭を牽きはじめます。バッソの牽きで再びペースがあがり、とうとうサストレ・ヴィノクロフ・そして総合首位のアローヨが遅れます。さらに本命のうちの一人であるエヴァンスも振り切り、バッソについていけるのはチームメイトのニーバリと、総合8位のスカルポーニだけに。この3人は先行していたガルゼッリをあっという間に捉え、そしてかわして行く・・・


モルティローロ峠の山頂でバッソを含む先頭の3人は、遅れながらも途中でアタックを掛けたヴィノクロフと52秒差、最後まで粘ったがさらに遅れ、サストレに追い付かれたエヴァンスと1分42秒差、ここからさらに総合首位のアローヨは遅れ、1分56秒差。
このとき僕を含む視聴者はおそらくバッソの総合優勝がぐっと近づいたと思ったことでしょう。アローヨとバッソの差はスタート前では2分27秒差。既に1分56秒差がついており、ゴール前の緩い登りでさらに差を広げたら今日だけでも総合首位の逆転の可能性はあるし、明日の山岳ステージも含めると、今日エヴァンスに差を付けたバッソはかなり有利な立場になった、そう思ったハズ。


が、しかしここからさらにレースは動きます。
登り途中から小雨がパラついており、下りの路面はウェットでかなり滑りやすい状態に。ロードレースのタイヤは非常に細いので、路面が濡れているとちょっとブレーキのかけ方を間違えただけで吹っ飛びます。さらに彼らプロ選手はダウンヒルでは軽く70〜80キロでぶっ飛ばして下っていきます。当然ガードレールの向こうに飛んでいくような事故も多いです。
重要なのは、バッソダウンヒルがかなり苦手だということ。ダウンヒルを得意とするチームメイトのニーバリに先頭を牽いてもらいコース取り・スピード調整を助けてもらうものの、ちょっとニーバリが気を抜くとバッソが遅れてしまう始末。しょうがないのでニーバリは超安全運転で下っていきます。
バッソ達がのろのろと下っている間、総合首位のアローヨが奇跡的な速さでダウンヒルに突っ込んでいきます!あっという間に前を行くサストレ達に追いつき、約一分差あったヴィノクロフまで追いつきます。ダウンヒルが終わり、最後のアプリーカ峠の緩い登りに入った時は、なんとアローヨ・ヴィノクロフバッソの差は約40秒!

アローヨの驚異の追い上げで、この時点で勝負はほぼ振出しに戻ったと言えるでしょう。しかし、最後の勝負の分かれ目はまさにここにありました。
ヴィノクロフと先頭交代*3をしながらバッソを追うのか、約10秒差で後ろを走るサストレ・エヴァンス達を待つのか・・・というのも先頭交代してバッソを追うのなら、集団の人数は多い方が一人一人の負担が減り、結果としてスピードが上がります。
アローヨはヴィノクロフに対して「行け!」というジェスチャーをしますが、ヴィノクロフは乗り気ではなさそう。結局2人は後ろから着た3人を待ち、合流して、アローヨ・ヴィノクロフ・サストレ・エヴァンス・ガドレという5人の集団となりました。


結局この選択(というかヴィノクロフの反応)が仇となりました。
先頭のバッソグループは、もちろん後ろ(アローヨ・エヴァンス)との差を広げたいバッソ・それをサポートするニーバリ・そして総合8位と上位陣の中では持ちタイムが一番悪く少しでも順位を上げたいスカルポーニ、まさに3人の思惑が一致し、協力して全力で残り15キロ先のゴールを目指します。
一方のアローヨグループは、ペースが上がりません。アローヨはしきりに残りの4人に「牽け、牽け!」というジェスチャーを繰り返すのですが、意思疎通が上手くいかず、アローヨ以外の4人は全く先頭交代に加わろうとしません。
というのも、明日も厳しい山岳ステージが待ち受けており、ここで先頭を牽く=体力を使うことは、同じグループに居るアローヨ以外の持ちタイムの近いライバル達に対して不利を被ることになります。総合17位のガドレはもちろん先頭を牽くわけがありません。
バッソと総合で5分近いタイム差がついたサストレ・ヴィノクロフは総合優勝をあきらめ気味で2位・3位争いをしなければいけない状況もわかりますが、エヴァンスは前を行くバッソを追って総合優勝を狙わなければいけません。しかし、モルティローロ峠での遅れを見る限り、おそらくエヴァンスにはそれだけの体力が残されていなかったのでしょう。一応ちょくちょくアローヨに代わり先頭を牽くのですが、すぐに後ろに下がってしまいます。

そうこうしているうちに、登り始めにはたった40秒だった差はあっという間に開いてき、最終的には3分近い差となってしまいました。一人でひたすら先頭を引く全身ピンク(総合首位の証)のアローヨの姿がとても悲しかったです。


ラストのゴールスプリントでは、バッソに比べ圧倒的に力を温存してきたスカルポーニが早駆けをみせてステージ優勝を獲得しました。ずっとリクイガスの二人の後ろにいたのでもしかしたらバッソに譲るかな?とも思ったのですが*4、最後の登りではしっかり先頭交代に加わっていたし、なにより20秒のボーナスタイム*5は8位のスカルポーニにとって譲れない点でしょう、しっかりゲットしていました。


このステージの焦点であった、バッソとアローヨのタイム差。激しい山岳で2分差が付き、そこから下りで40秒まで縮まり、そしてそして最後の緩い登り(普通はあまり差がつかない)でなんと3分まで広がるとは、誰が想像したでしょうか。
予想以上に白熱の展開だった第19ステージ、とても楽しませてもらいました。
人間心理・レース展開・肉体状況・天候・・・様々な要因が絡み合った上でのこの結果。あぁロードレースは面白いなぁ。
というわけで、もっといろいろな人がロードレースに興味を持ってくれたらいいなと思い、珍しくこのようなエントリを書いてみました。
ちなみに僕はバッソが好きです。イケメンなので^^


無理やりアイドルブログ(だっけ!?)的な締め方をすると、ニコニコ動画アイマス架空戦記でロードレースを舞台にした非常に面白いシリーズが上がっています。アイマスクラスタの方はぜひ。

アイドルマスター架空戦記 【iM@S×PCM2008】Piyo Cycling Manager (1)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6927354

ではでは。

*1:皆さんご存知のツール・ド・フランスに、ブエルタ・ア・エスパーニャジロ・デ・イタリアをあわせて3つです

*2:今日のリクイガスのアシストの仕事はひたすらペースを上げて、エースのバッソ以外の選手を脱落させること。自分が脱落するぶんには一向に構わない。それがアシスト。

*3:ロードレースでは集団は基本的に縦一列になって空気抵抗を減らしながら走り、先頭の選手は風を受けて力を使うので一定期間走ったら後ろに回って馬跳びのように次の選手と先頭を交代しながら走ります

*4:ロードレースでは紳士協定として状況によってステージ優勝を譲ることもしばしばあります

*5:総合タイムからボーナスタイム分の秒数がマイナスされる