告白

予告編に惹かれたので、原作はあえて読まずに鑑賞。素晴らしかった。上映中なので、一応隠しておく。

テーマは「命」。それに関わる、HIV・イジメ・過保護(母と子)・児童虐待といったモチーフが散りばめられている。
岡田将生演ずる熱血教師に象徴されるように、それらのモチーフは過剰性によってひたすら軽く描かれるのだが、見ている最中には松たか子の演技に引き込まれ、つい「リアル」だと感じてしまう。ラストシーンは若干やりすぎ感もあり、見終わってみると、後味の悪さは全く無い。


特に冒頭の長い長い松たか子の告白が続く教室のシーンは素晴らしい。
ひたすら青く、暗いエフェクトで無機質な教室が描かれ、中学生達のガヤは異常なまでにうるさく、松たか子の台詞が聞き取りづらいほど。冷静に振り返って見るとあの教室はほんとうに異常空間なのだが、見ている際にはそれが「リアル」だと感じる。画面の作り方・映画の作り方が凄いなと感心してしまった。というか映画全体を通して、明度が高いカットは殆どなかったように思われた。
体育館・教室といったシーンに中学生が大量に配置され、初めはなんとか個体認識できそうなクラスメイトたちも、数人を除いて後半では一気にモブ化する。特に後半の体育館のシーンは凄まじく、制服というアイテムの記号の強さ・そしてアニメーションでは難しい「実際の人」による大量のモブキャラクターが狂気をうまく演出できていたと思う。というか中学生怖い。中学校は狂気の空間なのだ。


キャストについて。

主演の松たか子は、至る所で絶賛されている通り、本当に名演だった。
前半の見せ場が終わり、終盤に再度登場しファミレスで美月(橋本愛)と正対するシーンがあるのだが、橋本愛の人形のような幼い・感情を感じさせない顔と比べると松たか子は肌質などからやはり歳を感じるのだが、それが物語の成り行きを裏から糸を弾いていた、「母」として・大人として・人間としての非常に恐ろしい顔として美月と対比的に立ち現れていて、松たか子の新境地を見せつけられたことが印象深い。

ヒロインの中学生、橋本愛。この映画で初めて知った。家に帰ったところ、セブンティーンモデルで、代ゼミのCMなどに出演しているらしい。
堀北真希にそっくりで、栗山千明と若干志田未来を混ぜたようなイメージ。制服を着ていると非常に真面目な無感情系美少女委員長なのだが、後半になって、家族を毒殺した少女に憧れるバイオレンス少女として裏の顔を見せた時のゴシックパンク?系の私服姿も露出した肌の白さ・華奢な体系と相まって非常に魅力的だった。
堀北真希がそう形容されるように、まるで人形のような印象であり、心に闇を抱える中学生の中の一人として一際目立っていた。彼女が画面内に居ると、ゾワゾワと心が騒いだ。
終盤で少年Aに殺されたカットでは、笑ってしまうくらいに白い肌と黒髪に血溜まりが映えていた。仰向けに横たわる死体姿を真横の視点から写したカットで、顔からゆっくりと体の方へのパンによって華奢な胸が強調されるシーンが非常にエロティックで美しかった。14歳、中学2年生という特別な瞬間と狂気、美しさ、性的な魅力と死。


AKB48について。
挿入歌として「RIVER」が使用されていて、『告白』公式サイトを見るとどうやら一部メンバーが舞台挨拶をしているようだ。
少年Bこと下村直樹(藤原薫)がAKB好きの少年として描かれているのだが、なかなかどうしてAKBの使い方は映画内で効果的だったように思われた。
直樹は、辛い部活はすぐに辞めてしまい、塾に行っても成績が伸びないようなひたすら凡庸な少年として登場し、殺人願望のある成績優秀なサイコパス系の少年Aこと渡辺修哉(西井幸人)の駒として使われ、結局修哉が成し得なかった殺人を直樹が犯すことになり、精神に異常をきたす。
この直樹が修哉と仲良くなりたい一心で殺人の被害者として松たか子の娘を提案する際に、薄暗い修哉の離れ部屋?内のテレビで「RIVER」が流れ出す。あまりに軽いその提案は狂気のワンシーンを描き、RIVERのイントロのストンプが今までにないほど恐ろしく聞こえてきてとても驚いた。「前に進め、Got it!立ち止まるな、Got it!」という歌詞が「殺人」への応援歌として機能する瞬間である。画面の中で踊る姿も、おそらくPVではない・・・?暗いバックの中、舞台で踊るAKBは非常に無機質な存在で、不気味だった。
また、精神に異常をきたした後も、直樹の部屋にはAKBのポスターが張ってあることが画面で強調され、エイズで死にゆく自らの運命(おそらく誤解だが)にたいして「まだセックスもしてないのに!!」と暴れる姿がややコミカルに描かれている。

何度もいうように、直樹はひたすら凡庸な中学生である。ひたすら凡庸な中学生はAKBが好きで、ポスターを部屋に貼っている。これもまた映画内では非常に「リアル」なのだ。個人的な経験に鑑みても、実際のところ中学生の中でAKBの人気はかなり高いようだし、電通がどうのこうのメディア戦略がどうのこうのとここで騒ぐつもりはない。見終わってみると過剰で全然「リアル」ではない演出も、見ている最中ではなぜか「リアル」に感じてしまう。そのアイテム・モチーフの一つとしてAKB48は非常に良い働きをしていたと感じた。AKB、流石である。